ちょっと可笑しいゲームセンター

麝香連理

面接という名の見極め

 ここだ…………もう完成してから一月も開店せず営業をしていないゲームセンター。

 ここいらは別に田舎というわけではないが、逆にこの大きさのゲームセンターはどこに行っても珍しいだろう。しかも駅近。

 だからこそ、当初はかなり沸いた。もちろん地元の子どもが。まぁ大人も。

 しかし、さっき言ったように一月も動きがなければ話題は移ろい、注目度は下がっていく一方だ。

 

 このゲーセンが開店しない理由として、求人が原因だと俺は睨んでいる。

 休みは殆どないが、月給百越え。しかし、面接に行けども受かったという話を聞いたことがない。俺は家庭の事情があれのため、意を決して面接に来たのだ。



 扉の前に立つと、やはりその圧倒的な大きさに目を見張る。もしかしたら学校の校庭よりも面積があるかもしれない。

 おっと、表情を緩ませるな…………強気に、行く!











「こんにちはー!今日面接に参りましたー!空見灰斗でーす!」

 俺の精一杯の大声が虚しく木霊する。

 中は驚くべきことに、メダルにクレーンにパチにアーケード。ポピュラーからマイナーまで、多岐にわたって設置されていた。


「ようこそ。」

「っぉ!?」

 俺が周囲に気を取られていると、声をかけられた。驚きで正面に向き直ると、白いポンチョのフードを目深に被った人がいた。

「驚いた?」

 声音的に女性だろうか、楽しそうに尋ねてきた。

「ええ、まぁ。」

「これ、一応従業員用の服だから、君も受かったら着て貰うよ。さ、こっちにおいで。」

 その人の進む方向に後ろについて行く。白いポンチョの背中側には、ゲームセンター・エウドゴと刺繍されていた。

 初めて見たけど、言い辛……………




「はい、ここに掛けて。」

 バックルームに連れられ、その内の一室に案内された。

「し、失礼します!」

 座ったことを確認したさっきの人、もとい面接官が机からガサゴソと俺が送った履歴書を取り出した。

「んで、これが君の履歴書だね。フムフムフム………」

 ここが、正念場だ!

「んー、やっぱり無難にどうしてここに?やっぱりこれ?」

 面接官が片手で金のマークを作る。

「…、はい。」

「お、いいねぇ。正直者は嫌いじゃないよ?なんでお金が?」

「…………両親が借金で蒸発しまして、弟と妹を養うために、家から近くて給料の良いところを探していたところ、こちらを見付けました。」

「えぇ………本当にうちは休みないけど、良いのかい?」

「はい、妹は丁度反抗期でして………自分が家にいるとすぐ不機嫌になるので……………あまりいない方が良いのかなと………」

「えぇ、超重ーい。」

「あ、ごめんなさい!こんな面白味もない……」

「いやいや、謝ることではないよ。でもちょっと引いちゃった。ま、確認は取れたから最後の審査に行くよ。」

「最後の審査…………?」

「うん、うちは身内でやるつもりだったんだけどさ、やっぱり地元の人がいた方が良いと思って、一人雇うつもりだったんだけど、この最後の審査で皆落ちちゃって。」

「なるほど…………」

「だから最後の審査は同僚にオッケーを貰うことだよん。」

 面接官が手招きをして更に奥へと案内する。


「ここは従業員用の個室。私含めて皆ここで生活してるからさ、空見くんも受かったら一室貸すよ。もちろん、従業員だからタダでね。」

「すごいですね…………こんな規模で…………」

「ふっふーん、良いだろう?私が土地から建物、ゲーム全て用意したのだよ。」

「やり手ですね。」

「ミャッハッハッ!もっと褒めても良いんだよ?」


 いや、勿論太鼓持ちは必要な時もある。だが、今回は純粋に尊敬した。まさか一人でとは…………どれだけの資金が……………



「はい、まずはここね。ナーコちゃーん、新しい子ー!」

 面接官がドア越しに話すと、暫くしてゆっくりとドアが開いた。

「うい。」

「ど?」

 中から出てきたのは金髪をウルフカットにした三白眼の女性だった。もう少し見ようとしたが、フードを目深に被られてしまい、それ以上は分からなかった。

「……………………」

「……………………」

「ワクワクワクワク」

「………良いぜ。」

 ウルフカットの女性は一言そういうと、また部屋の中に入ってしまった。

 まぁそんなことよりも、だ。

「じゃあ!」

「おめでとう空見くん!第一関門トッパー!」

「………え?」

「はい、次ねー。」

 これだけじゃないのか……………



「テンー!新しい子ー!」

「懲りないわね。」

 出てきたのは……ダメだ。今回は最初からフードを目深に被ってる。

「…………」

「何?挨拶も出来ないわけ?」

「っ!すみません!自分は空見灰斗ともうします!」

「………はぁ、まぁいいわ。今日は機嫌が良いから特別。」

 テンと呼ばれた女性はそういって部屋に戻った。


「これで!」

「うんー!第二関門トッパー!」

「………」

「ふふ、次が最後だよー。」

「本当ですか?」

「ホントにホント。」

「…………分かりました。」

「あ。ちなみに次の子は匂いで判断するから。」

「……………………ほう。」

 香水もつけてない、流行りも分からない、緊張で汗でベトベト…………スリーアウトでは?







「リルー!新しい子ー!」

「………………………」

「………………………」

「………………………」

 え?

「あちゃあ寝てるねー。じゃあ良いか。うん、君合格。」

「え?………………良いん、ですか?」

「良いんじゃなーい?じゃ、戻るよー。」

 ほ、本当に良いんだろうか?

 俺は困惑しながらも、面接官の後ろについていった。







「ここ、君のロッカー。」









「ここ、君の個室。」










「君の担当はメダルね。うちは二十四時間営業だけど、君の業務は朝九時から夜二十四時までね。私服の上にこのポンチョ着れば良いから。

 深夜帯は基本私が一人で回すから。

 明日から宜しく。」

 目まぐるしく案内されてまだ覚えきれてないが、気持ちを切り替えなければ……もう、俺は社会の歯車なのだから。

「分かりました!ありがとうございます!」

「ん。………あ、ごめんやっぱ明日は一時間早く来て。説明とか同僚の紹介とか。」

「問題ありません。これから、宜しくお願いいたします!」

「はいはーい。」








「うわ……」


 家で作り置きを終えて次の日。

 ネットで遂に開店と告知をした途端これ。かなりの行列が出来ていた。

 た、確か勝手口はここだったな。



「おはようございます!」

「はぁーいおはよー。」

 昨日の面接官の他に、二人がいた。

「えっと……」

「ごめんねーリルは遅れてくるよー。」

 面接官の人がそう言うと、ドアが開いて一つの人影が入ってきた。



「んー…………」

「っ!?」

 多分、リルさんだろう。……………赤蘇芳の髪に小柄な身体。顔は少し天然なのかポヤッとした脱力感のある感じなのだが…………耳が尖っている…………

 あれだ、アニメで見るエルフみたいな…………

「あ、あれ……………!」

「ありゃりゃ、寝惚けてポンチョ忘れちゃったかー。」

 俺が震える手で指を指すと、面接官の人がフード越しに頭をかく。

「代わりに紹介するよー。この子はイラエルフのリルトリア・メニア。担当はパチンコ系ね。」

 面接官がやれやれといった様子で紹介してくれた。

イラ?いやそれよりも、あの人エルフって言ったか!?

 すると、元々いたフードを被った人達の内一人が一歩前に出た。


「こんなら見られても良いだろ?いい加減ずっとは暑苦しいんだよ。」

 一人がそう言ってフードを外した。金髪にウルフカットのナーコと呼ばれた女性だ。

 しかし、よく見たら襟足が長く、頭には動物の耳がついていた。

「あたしは黄金狼のナーズコット・サランスファ。担当はクレーン。ナーコで良いぜ。」

 お、狼…………!?


「じゃあ私も。」

 もう一人、テンと呼ばれた女性もフードを外した。

 部屋の証明でキラキラと虹色に輝く漆黒の髪。とそれに負けるとも劣らない威圧感を放つ、後ろ髪の上をなぞるように伸びる2本の角。

「私はパナシアドラゴンのノテリン・ガージェッド。担当はアーケードよ。一応、同僚になるわけだからテンで良いわ。」

 ど、ドラゴン……………なんか、すごいところに来ちゃったな…………


「え、あ、メダル担当になりました。空美灰斗です。」


「あ、私名乗ってなかったね。担当は全て、この店のトップ!ミザーリア・ハル・トリリノワンバー。ミーちゃんって呼んでね?」

 み、ミーちゃんさんはフードを取らないのか。

「うわ。」

「歳考えなさいよ…………」

 ナーコさんとテンさんが呆れたように呟いた。

 え?そんなに歳上なのか?

 ……あ、いや、異種族っぽいし、長命種とかか?

「はい、じゃあ空美くんは私と業務説明ねー。二人はリル見といてー。」

 全く聞こえていなかったかのようにスルーすると、俺の腕を強引に引っ張っていく。










「はい、説明は終わり。リル起きたー?」

「ん、起きた。………………この子誰?」

 リルさんは無表情のまま俺を指差した。

「新しい子。」

「…………聞いてない。」

「だって、寝てたじゃん。」

「……………じゃあ良いか。」

 良いんだ!?

「お、匂いとか気にならない感じ?」

「うん。」

 俺は気になっていたことを聞いてみることにした。

「あの、皆さんの審査って結局何を見てたんですか?」

 あの謎すぎるあれだ。流石に受かったのだから、聞いても良いだろう。


「え?あぁ、あれね。まずナーコは肉食だから空美くんを食べちゃわないかの確認。」

 ヒエ!?

「あぁ、肉付きが悪くて不味そうだった。全くそそられない匂いは久し振りだよ。」

 これは、喜んで良いのか?

「テンは気分屋だから、マチマチだね。」

「ふん、あの時はリセマラでSSR四枚引きしたのよ!それだけ!」

 俺もテンさんも豪運だったというわけか。

「リルは匂いだね。ホントに気にならない?」

「ん、気にならない。珍しい。」

「いやぁ、良い人材が来てくれて良かったよー。それじゃ、今日から業務、頑張っていこー!」

「おー」

「やらないわよ。」

「んー………」

「お、おー!」

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