Novel 2
鈴木藍(Suzuki Ran)
日和日記
最近、ハシモトは仕事で疲れていて、疲れていることが当たり前になっていたため、電車から降りたホームより改札に向かう際に、エレベーターやエスカレーターに乗らず、階段を疲れながら歩く方が楽に感じていた。とても異常な感覚だと、シオンが苦笑いをして階段を登る姿を見ては彼はその事に初めて気づいた。隣には彼女が一緒に階段を登っている。あの日から二人は友達になった。
時々連絡を取っては、お互い仕事がない日に一緒にカフェ巡りや美術館に散歩を兼ねてお出かけする仲になった。
改札を出て、多くの人の行き交いを目の前にした。
「ねえ、ハシモト。今日はちょっと私疲れているみたい。駅周辺で用事済ませない?」
夜勤明けで疲れた身体を酷使して、彼女は彼と共に人で混み合う昼の駅の構内を歩いている。
「いいよ。駅中にあるタピオカジュースでも飲もうか」と、ハシモトは言った。
「ハシモト、いつからミーハーになったの?」と、シオンが聞くと、シオンと仲良くなってからだよ、とハシモトは嬉しそうに言葉を返した。
タピオカジュースのお店に着くと、タピオカジュースを買い求めて並んでいる行列を目の前にハシモトは足をすくませた。シオンは仕事上、人の群れには慣れている。一方ハシモトは人の群れに全くと言っていい程慣れていない。
早速、タピオカジュースを買うため、二人は行列の最後尾に並んだ。
背が高く大きな身体をしているハシモトに対して、華奢な細い身体で身長が低いシオンは対称的だった。一見、二人は違う世界を生きているような人同士に見えるが、本質的には同じ世界観で同じ世界線を生きている。駅の構内にあるタピオカジュース店、そこに二人でいることが何よりの同じ世界観を証明する事象であった。
行列の最後尾に並んでから、数十分くらい経過した後にようやくレジの目の前に立った。
シオンが、スタンダードのタピオカジュースを頼み、ハシモトは甘さを強めにサイズ大きめのタピオカジュースを頼んだ。
頼んだ後、すぐにタピオカジュースが二人へ手渡された。タピオカジュースを飲むと二人は喜び、シオンは良くなかった体調もまずまずな具合には落ち着いてきた。
ちょうど、外は雨が降ってきたので、予めハシモトが持っていた傘を差し、二人で一つの傘の中へと入り、ペデストリアンデッキから外階段を降りて、灰色の雲がかかる昼の街中へと消えて行った。
街中に行くと、二人は商店街を抜けて、天然石や鉱物など原石を取り扱う専門店内に入った。
店中には、たくさんの種類の石をはじめ希少な天然石や鉱物などがガラスケースの中に並んで販売していた。
ハシモトはアメジストが好みらしく、アメジスト原石の前で足を止めて少しの間眺めていた。
シオンは石や鉱物をあまり知らないらしい。
ダイアモンド、ルビー、サファイアは知ってるとハシモトに話した。
ここ数日、シオンは仕事で使うピアスを探していた。
好きな原石や鉱物を使い、オーダーメイドでピアスを製作することができると店主から勧められた。
シオンは翡翠が良いと思ったらしく、小さい翡翠の欠片を使い、ピアスのオーダーメイド商品を注文した。今月でハシモトとシオンが出会ってから一年が経つため、ハシモトが一周年記念のお祝いにとシオンへプレゼントした。
シオンは今まで、プライベートでは他人からアクセサリーをもらったことがなかったのでとても喜んだ。ハシモトと友達になった以前にお付き合いした者とは数ヶ月間しか交際期間がなかったため、ハシモトとの距離ほど人と親密になった機会がなかった。シオンはハシモトと真逆の性質を持つが、人間としての相性は良く、友達感覚で話しができる距離感で二人はお互いに接している。
一年前に一緒に乗ったタクシーの出来事は、いまだに二人の中では「秘密の出来事」として捉えている。あの日を境に二人は距離を縮めてきた。
そして、今月友達になった日から一周年を迎える。
二人は、お互いに成人してから記念日を祝ったためしがない。今回が初めてである。
ごく一般的なカップルでもないが、二人の個性が長く続いていくであろう一つの物語を紡いでいる。
月に一回程度のデートは二人にとって至福のひと時となっている。
Novel 2 鈴木藍(Suzuki Ran) @star_earth_kr
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます