ポテおじさんの休日

しゃもこ

ポテおじさんとのホリデイ

 あたしの休日は、なぜかいつも彼の休日って決まってるの。


 本当は毎日でも会いたいんだけどね。誘ったからって、彼が来てくれるわけじゃないの。いつも突然、その日は来るの。


 LINEの着信音で飛び起きたわ。


 「今日の俺が君を呼んでる気がする」

 なに?それ?でもニヤニヤは止まらない。

 

 結局、彼に公園のベンチに呼び出された。ポテおじさんはバーコードヘアーを風にたなびかせ、缶コーヒーを両手で包みながら語る。今日もお腹は、ぽってり。かわいい。


 「俺さあ、恋しちゃったかも」

 「またあ?」

 「昨日のスーパーのレジの、俺に“袋どうされますか”って笑顔で聞いてくれてさ」

 「それはオシゴト!」


 あたしは占い師をしている。恋の行方も、未来の不運も、カード一枚で読めるの。


 でもポテおじさんとの未来だけは、まるで霧の中みたいに掴めない。困っちゃう。そんなことを思ってたら、彼が突然聞いてきたの。


 「ねえ、俺のオーラって何色?」


 あたしにはドピンクにしか見えないけど、意地悪しちゃう。僕の気持ち……知ってるくせに。


 「豚骨スープ色かしら?」

 「うまそう」

 「誉めてないからっ!」


 この人、やたらモテるの。


 バーでは常連客たちに「今日も優しい顔ねぇ」と声をかけられ、カフェでは若い男子店員に「いつも笑顔が素敵です」とか言われて。


 それに知ってるの。僕以外にコンスタントに会うが何人もいること。


 わかってるの。彼の魅力はこの無敵のオーラ。


 僕が必死に眉を整えて猫目アイライン引いてる横で、ポテさんは頭頂部に朝日を反射させてモテている。


 理不尽!でも、好き……


 「俺さ、この先さ、誰と一緒に笑ってる?」

 「またそういうこと……」



 ため息をつきつつ、僕はカードを切る。

 ところが突然風が吹いて、カードが全部飛んでいった。やっぱりね。彼のことだけは見られない。


 「おおーすげえ! 占いって屋外だと開放的!」

 「黙って?」

 僕はポテさんの横顔を盗み見る。


 目尻の皺も、お腹のぽってりも、すき。

 「……多分、僕。あなたの隣で笑ってるの、たぶん僕!」

 「そりゃ最高だ!」

 ポテおじさんは缶コーヒーを掲げて笑った。


 その笑顔があんまり無邪気で、僕はもう占いなんかどうでもよくなった。


「今からどうする?」

 彼が甘い声で誘ってきた。ずるい。びっくりする位甘い声を出すの。その声に反応して背中がぞくっとする。力が、一点に集中するのがわかる。



 答えは1つしかないってわかってるくせに。


「行く……」


 彼のおうちには行ったことがない。僕のマンションにも来てくれない。私たちが会うのはいつも時間で借りられる場所。


 でもいいの。僕は彼が好き。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ポテおじさんの休日 しゃもこ @syamcoHEIZAN

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ