第2章 著作権とは

 AI、特に生成AIで問題になるのが著作権。

 ちなみにこの問題はこれよりはるか以前、Winny事件を覚えてる方もいるでしょうか。いわゆる違法アップロード問題でも良く取りざたされます。

 まあ、あれが違法ではないという人はほぼいないでしょうが。


 というわけで本項ではまず『著作権』とは何か、というのと、その歴史について簡単に解説します。

 本格的に知りたい方は、検索などで調べればたくさん解説サイトが出てきますから、それを読み込んでください。

 正直著作権に関しては、詳しく解説していたらそれだけで下手な卒論並みの文章になりかねないので、詳しいことを知りたければいろいろなサイトへどうぞ。

 なお、日本の著作権法の全文は以下で読めます。

 https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048

 一応今回のこれを書くにあたって、ざーっと全文読みましたが、普通の人は読まなくていいと思います(解説サイトのほうがずっとわかりやすいです)


【著作物とは】

 著作物に関しては、著作権法の一番最初に定義されています。

『思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう』(第2条第1項)


 また、具体的にどういうものが対象となるかについては、第10条に例示されています。

 ・小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物

 ・音楽の著作物

 ・舞踊又は無言劇の著作物

 ・絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物

 ・建築の著作物

 ・地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物

 ・映画の著作物

 ・写真の著作物

 ・プログラムの著作物

 ちなみに報道情報などの事実をそのまま記した情報には著作権の保護は適用されません。ただし、その表現内容次第では、適用されることもあります。

 また、プログラムの構文それ自体は著作権の対象にはなりません。あくまで、プログラム全体として何かを表現したものが著作物として認められます(簡単にいえばソフトウェアとして機能するものなら、ソースコード全体が著作物だと思えば大体あっているかと思います。例えば、このカクヨムというサイトも、著作物です)


 また、第10条にあるのはあくまで例示であることから、ここに記載されていない、今後新しいものが登場しても、著作物として認められることは十分あります。契約書で言えば『これらに限らない』的な言い回しでしょうかね。


 そして『思想又は感情を創作的に表現したもの』という定義があるように、いわゆる新しい発見、あるいは発明といったものは、著作物ではありません。

 これらは別の法律で保護されます。


【著作権はいつ発生するか】

 これは、著作権法の最初にあるように『表現』した時点で発生します。

 この場合の表現は、記述及び演奏または口頭での発表など、他者が認識可能な表現方法であれば、何でも構いません。

 たとえば、小さな子供が「面白い話を思いついた」といって親に語って聞かせた時点で、その話には(創造性がある話であり、事実を説明したものではないとする)著作権がその子供に対して発生します。


 そしてここが大事なところですが、著作物はその著作権を主張するにあたり、どこかに登録をしなければならないものではありません(無方式主義という)


【著作権の歴史】

 ちょっと歴史の話になって、著作権というのがいつごろから認められるようになったのかについて。

 著作権は現在では『創作物を作ったときに自動的に発生する』(無方式主義)もので、いわゆる自然権(基本的人権などと同じ)に近い性質を持ちます。

 その一方で、財産権としての側面も持ち、その性格は時代とともに変化しながら、現代に受け継がれています。


 著作権とは、著作者の権利を守るためのものであるのですが、それがないと問題になるのは、実は印刷術ができたころになります。

 それ以前は、基本的に手による写本で、むろんそれでもコピーされてしまうことあれば、アイデアの剽窃などはあり得たとは思いますが、情報の伝達速度が遅く、かつ実害もほとんどないため、問題視されませんでした。

 そもそも著作物を財産として捉える考え方もほとんどなく、むしろコピー(複写)することは作品を広めるうえで必要なことで、歓迎されるものです。

 そのため、古代~中世にかけては、著作権という概念自体がほぼ存在しないといっていいかと思います。

 もちろん、例えば源氏物語を同じ平安京にいる人が自分の作品だといって広めていたら非難されたでしょうが、それは著作権侵害というより、もはや道徳的な、あるいは名誉の問題というほうが早いでしょう。


 それが変わったのは、近代に入ってから。

 厳密には、著作権を定義した法律は十五世紀にヴェネツィアで誕生しているそうですが、現代に続く著作権の概念のベースになっているのは、イングランドで1710年に成立した、通称アン法(正式名称はとても長いのでWikipediaなどをみてください)です。

 この法律ができたころ、書籍はすでに活版印刷術で印刷されるようになってました。つまり、古代~中世のように写本ではなく、短時間で大量に印刷し、頒布することができたのです。

 しかし、著者が印刷設備を持っているわけではないので、その設備を持つ業者(出版事業者)と契約し、本を印刷するわけですが、当時、そのあとの当該著作物の出版は、出版事業者が独占的に持つようになっていました。いわば、永久的に出版権を譲渡してしまっていたのです。

 これを、著者に権利を残すようにしたのがこの法律だそうです。

 今でいう著作権の考え方ですね。


 実際にはこの時にすっきり著作権というものが認められたわけではなく、多くの人々の試行錯誤の末に著作権が形作られているわけですが、詳しい経緯は割愛します。

 ともあれ、この動きは英国以外にも広がり、やがて世界的に著作権が認識され、一九世紀末に『ベルヌ条約』という条約が締結され、著作権保護の取り組みは国際的な動きとなります。

 もっともこれは条約であり、各国ともこの条約を批准するために国内法を整備することになるのですが、その動きや速度はまちまちで、例えばアメリカが当該条約を批准したのは1989年です。もちろん、国内に著作権を保護する法律はありましたが、アメリカはやや特殊な事情もあって、批准が遅かったようです。


 ちなみに日本のベルヌ条約批准は非常に早く、なんと1899年。当時、国際化を進める日本としては、いち早く対応したのでしょうね。この辺りはまた後程。


 なお、現在では世界中の世界貿易機関(WTO)の一員であるためには『知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(通称:TRIPS協定、1994年成立)』を守る必要があり、この協定の中でベルヌ条約についても満たすよう求めています。そのため、事実上ほとんどの国が現在では著作権その他の権利(特許などの知的財産権)を守る義務を課せられています。

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