感傷を排した、漢の飯テロ。地に足付いた「食」と「殺伐」の協奏が美味しい
- ★★★ Excellent!!!
まず最初のエピソード「0.Prologue 御荘という男」の完成度に唸らされます。
主人公・御荘の根本行動原理――すなわち「依頼を受け、対象を爆破する」「稼いだ金で美味いものを食う」この2つが、短い場面の中に端的にきっちりと提示されている。
かつ、読み手が期待しているであろう食事描写も、具体的にどんな感じなのかをサンプルとしてしっかりと入れ込んでいる。
この先の物語が、いかに「危険」で「美味しい」ものになるかを、2600文字の中で魅せている見事な手際。
流石は某書き出し祭りのレジェンド……と、感嘆せずにいられません。
そして、その食描写が実に良いです。
本作は、主人公の2つの行動原理「爆破」と「美食」を核に進んでいきます。主人公が黙々と爆発物を作り、次々と人を殺傷していく極めて殺伐とした本筋の間に、食事パートが挟み込まれてきます……が、これが「まさにこのために、主人公は生きているのだ」と実感させられる緻密さです。
風味や食感が細やかなのは無論のこと、登場する食べ物のバリエーションも、ファストフードやキッチンカーから居酒屋・異国料理まで実に幅広い。さらには「主人公、少なからずハズレも引いてるんだな……」と伺わせる、飲食店事情のリアリティ。
主人公自身の料理場面もたびたび登場しますが、主人公の料理の腕前については「素人にしてはかなり上手く研究熱心でもあるが、プロには及ばない」という位置づけなのが、またとても良いです。主人公の試行錯誤や創意工夫が垣間見える料理場面は、手触りを伴った細やかなリアリティがあって、料理店で絶品料理を食す場面とはまた違った趣があります。
もちろん、緻密さは食事場面だけに留まりません。
爆発物の製造場面(意図的にフェイクを混ぜ込んであるとのことです)や、爆破・銃撃等のアクション場面も細やかです。「殺伐」と「美食」の両極が、いずれも地に足のついた現実味のある形で描き出されています。
そして個人的には、美食が主人公の人生の大目的でありながらも、そこに過剰な感傷がまとわりついていないところが非常に好きです。
変にウェットな「癒し系」料理物語が個人的に苦手なこともあり、本作のドライな情熱を纏った料理描写は、読んでいてとても心地よかった。
「飯テロは好きだが、癒しとか真心とかが過剰に絡んでくるのは好きじゃない」という方には、本作は特にお勧めできると思います。
とりあえず私は今とてもギリシャ料理が食べたいです!!