侵略


 犬がいなくなり、ようやく落ち着きを取り戻した彼女は仮面を拾い上げて装着する。すると丁度その時。


「すみません~。うっかり手を放してしまって、こっちに犬が来ませんでしたか?」


 人間の女が息を切らせてやって来て、そんなことを言う。

 私と隣の彼女を視線を交わした後、口を開く。


「いいえ、来ていませんわ。一体どこへ行ったのかしら? 心配だわ、ねぇあなた」


「そうだな、おまえ。よし、私達も一緒にわんちゃんを探そうじゃないか」


 すると人間の女は泣き出しそうな顔をしていたが、幾分か明るい表情となる。


「ご親切にありがとうございます! ああ、なんて良い人達なんでしょうか!」


 ペコペコと頭を下げる人間、なんて騙されやすいのだろうか。これならこの地球という惑星を乗っ取るのも簡単だろう。

 ……おっと、危ない危ない。仮面に赤色の血が付着している。私は慌ててそれを手の甲で拭い取った。



《終》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

仮面夫婦 あおじ @03-16

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る