仮面


 朝、妻と手を繋ぎ公園の遊歩道を歩く。

 前方から私達と同じように散歩をしているご婦人が歩いて来て、にっこりと微笑む。


「おはようございます。毎朝ご夫婦一緒なんて、本当に仲がよろしいのね」


 私と妻は視線を交わした後、目を三日月の形にし唇を綻ばせる。笑顔、というやつだ。


「はい、そうなんです」


 二人声を揃えて言って、ご婦人と別れる。



 道なりに進んでいると、が口を開く。


「我々はいつまでこんなことを続けるのかしら? 早く故郷の皆をへ招きたいわ」


 仏頂面の彼女を諭すように私は言う。


「逸ってはならない。今はまだ慎重に調査を続けるべきだ。大切な仲間達を招くのなら尚更に」


「でも、こうしている間にも故郷は破滅の道を辿って──」


「ワン、ワンワン!!」


 憂う彼女の言葉を遮る様に響き渡る鳴き声。

 ぎょっとして声の聞こえた後方を振り返ると、彼女の足元にこの惑星では"犬"と呼ばれる生命体がいた。


「いやっ! 怖いっ、犬は苦手よっ!!」


「おい、落ち着け!」


 恐怖で混乱する彼女を宥めるも、彼女は身を捩って暴れるだけ。そして遂に、は地面に落ちてカランと音をたてた。



 そう、仮面だ。地球人に擬態する為に必要な仮面。



 仮面の下の素顔。赤いツルツルとした肌で、口は大きく裂けて牙がびっしりと生えている。目は単眼で地球人とは違って"鼻"はない。

 犬は見慣れない彼女の顔に警戒し、更に大きく吠える。リードのついた首輪をしているので、近くに飼い主である"人間"がいるかもしれない。

 私は自分の仮面を外すと、グワッと口を大きく開けて犬を丸飲みにした。

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