第7話


「聞いたぞ? 結界は一度張ればそう破られる物ではない。そのため毎日確認する必要などないとな」

「……それが何か?」


「ふん、まだ認めぬか。貴様は自分では結界が張れないという嘘がバレないように毎日確認しに行っていたのだろう?」

「……」


 つまり殿下は「ソフィアに聖女の力がなく、結界を張る事が出来ないから昔から結界の状態を毎日確認しに行っていた」と言いたいのだろう。


「図星過ぎて何も言えんか。結界の状態に関しては書物を読めば分かるらしいからな!」


 声高々に言う殿下に対し「いえ、あなたの主張があまりに突拍子過ぎて言葉を失っただけです。書物を読んだだけで結界を触れる事もなく全てが分かったらその人は紛れもなく天才です」なんて事はさすがに言えない。


 そもそもソフィアが毎日確認しに行っていたのはただ「心配だったから」というだけだというのに。


 いや、むしろこの「心配」のせいでこんな話になっているのか……とソフィアは思わずため息をつきそうになった。


 それにしても……先程の教会の人間からの証言には少し違和感が残る。


 彼らとはせいぜいすれ違いざまに挨拶をする程度でソフィアを貶める為にわざわざ国王陛下も参加した魔法鑑定の結果が虚偽だったと証言されてしまう程の何か恨みを買った覚えはなかった。


 ただ、幼い頃に過ごした教会の人。つまりシスターであれば確実に関りがあったと言える。


 だからひょっとしたらそのシスターたちの誰かが聖女として認められた私を妬んでいる可能性は否定は出来ない。


 なぜなら、ソフィアが聖女と鑑定されてホワイト侯爵家に入ってすぐの頃に教会は老朽化を理由に取り壊されたからだ。


 その時にいたシスターたちがどこに行ったのかは分からない。それを考えたら……証言者として名乗り出てきてもおかしくはない。


「ところで、どうしてミリア様が殿下の隣にいらっしゃるのでしょうか?」


 ソフィアが先程の話を否定も肯定もせずに話題を変えようとしている事に腹を立てたのか「貴様、小癪こしゃくにも話を変えるか」という声が漏れる。


「……」


 こんな自分の思考を表に……それも言葉に出す王族。いや、貴族も珍しい。普通はにこやかな笑顔の中に自分の思考や要求を隠して上手く通すのが常套句じょうとうくだと言うのに。


 将来的に国王になるはずの殿下がこの調子では将来的にお偉いさんたちや他の国に上手く乗せられて利用されてしまうのは目に見えている。


 いや、今。この状況がまさしくその時なのかも知れない。

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