第5章 夢を叶える為に。

第1話


「ところで一つ聞きたいんだけど、お兄さんはどんな魔物と戦ったのですか?」


 男の子の状態から察するに魔物からの直接的な打撃などを受けての怪我と言うよりはまき散らされた粉塵を吸い込んでしまった事によるものという事は見れば分かる。


 そして、そうした粉塵をまき散らすのは大体が「蝶」や「蛾」の様な大きな羽を持つ虫型の魔物だろう。


「え? えっと、羽のおっきな虫さんだった! でもなんかその模様が不気味で……」

「なるほど、分かりました」


 女の子の話からソフィアは「蛾」の魔物だと結論付けた。


 ただ、不幸中の幸いと言っていいべきか。


 そうした魔物の粉塵は「呼吸がしづらくなる」や「体の痺れ」だけでなく「多少の毒性」といった効果はあるが、死に直結する様な猛毒ではないとされている。


 つまり、薬を使わなくても一日休んでいれば治る軽度なものと言われているのだ。


「……」


 しかし、それはあくまで「大人」である事が前提だ。


 どうにも男の子の様子を見ると、多分この子はまだ幼いせいもあってか大人であれば「多少の毒」で済むところ、思いのほか過剰に反応してしまっている。


 このままでは最悪「呼吸不全」という後遺症が残ってしまうかも知れない。そうとなればやる事は一つしかない。


 それは「この場でこの男の子に最適な薬を作って安静出来る場所に連れて行く」という事だ。


「まず、蛾の魔物の粉塵という事は毒と麻痺の可能性を考えてこれとこれ。後は回復薬のポーションと――」


 バックから薬が入った瓶と道具を取り出しながらブツブツと独り言を呟きながら急いで薬の調合にかかる。


 ただ、独り言をもはや癖なので気にしないで欲しいと女の子の視線を感じながらもソフィアは思った。


 しかし、周りから見ると独り言を呟きながら作業をしているソフィアの姿はどうにも聖女と言うより魔女に見えてしまっていたらしい。


「後は薬が効き過ぎないように薄めて――よしっ」


 それを聞いたアーノルド殿下から嫌そうな顔で苦言を呈された事もあったなぁ……なんて思いつつ何とか薬を完成させた。


「これをその子に飲ませてあげられますか?」

「う、うん」


 出来上がった薬が入った試験管を女の子に手渡した。


「……」


 正直。出会ったばかりの人からもらった薬を使ってくれるか不安だったものの、この場で頼れるのがソフィアしかいなかった事もあってか女の子はゆっくりと男の子の口元に試験管を持って行き、薬を飲ませた。


「ゴホッ、ケホッ!」

「お兄ちゃんっ!?」


 薬を飲みこんだのが分かったと同時に男の子はむせた。


「だ、大丈夫?」

「ア、アン?」


 そして男の子は何事もなかったかのようにすぐに体を起き上がらせて口元を拭って今にも泣きそうな妹の方を見ている。


 顔色は随分と良くなり、呼吸も安定している。どうやらもう大丈夫そうだ。

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