第3話


「……」


 ソフィアの目の前に現れた魔物はどう見ても「臆病」とは程遠い。


 むしろふんぞり返ってはいないもののこの態度と物言いは自分を「強者」と思っていて疑いの余地などない。


 それでいて風格も「強者」のそれで、先程魔物が自分で「威圧」と言っていた時点でもはや魔物が自分で「聖獣」だと宣言している様なものだった。


 ただ、ソフィアも聖獣に会ったのは初めてでどう反応していいのか分からない。


 それもそのはず。


 そもそも「聖獣」自体その存在は少なく。土地の「守り神」とも評される程の尊い存在として聖獣がいる地域では崇められている。


 ただ、先程も説明した通りどの国や地域でも確実に「聖獣」がいるという訳ではない。現にソフィアがいた国で聖獣が確認されたのは遥か昔の話だ。


 そのせいかアーノルド殿下は「聖獣」の存在そのものを否定すらしている。


 それにしても、こうして人前に現れる事自体珍しいを通り越してもはや「ありえない」とも言える。


 なにせその土地を治めようとする人間の王との契約を結ぶ時など限られているとされていたのだ。


「どうした、我に見惚れて声も出せんか」

「……」


 自信ありげに話しているところ申し訳ないが、ソフィアが言葉に詰まっているのは「どうして?」や「なんで自分に話しかけてきているのだろう?」などと言った戸惑いが大きく、決して見惚れてなどいなかった。


 ただ、今の言葉を聞いて「相当自分に自信がある」という事だけは分かった。むしろこの自信が羨ましいと思う程だ。


「しかし、お主。相当な魔力を有しているな」

「え」


「お主ほどの魔力を有しておる者はこの国でもそうおらん。下手をするとこの国でも一番になるのではないか?」

「そ、そんな事は……」


 ないはずだ。


 なにせ、この国の魔法に関する事や研究は世界でも随一で、だからこそ魔法の天才も多く輩出していると聞いている。そんな国で自分が一番だなんて……にわかに信じられなかった。


 それにしても……。


「攻撃……してこないんですね」

「む? なぜしなければならんのだ? それとも攻撃して欲しかったのか?」


「い、いえ! まさか!」


 ソフィアとしては「自分は国の検問を受けずに森に入った言わば『侵入者』だ」という認識だったため、どうしても負い目を感じていたのだ。


「人間どもが決めた取り決めなど我らには関係ない」

「え、じゃあ」


 リーダーの話とは若干のズレを感じ、ソフィアは思わず顔を上げた。


「住処など荒らされれば攻撃するかも知れんが……相手が強者だと分かり切った上にそうした行動をしなければこちらから攻撃などようせん」

「……」


 言われてみれば確かにソフィアは魔力探知や先代聖女からの方針で学んだサバイバル能力を駆使して魔物の住処などを出来るだけ避けて通って来た。


 さすがにどうしようもない時は通ったが、それでも限定的だった。だから魔物が攻撃してくる事が少なかったのである。


「貴様が事前に聞いていた話ではルールを守らねば我が魔物をけしかけるという話だったかも知れんが、実際はそうではない。ただ冒険者に追われたくない荒らされたくないと感じたものたちが狩場から離れた場所を探し求めた結果。この周辺が安全と判断し、結果として魔物が増えてしまっただけの事なのだ」

「そういう……事ですか」


 それならば話は分かる。要するに魔物たちも冒険者にも追われない荒らされない安全な場所を求めて探し回った。特にレベルの低い魔物たちはそうだろう。


 その結果この周辺には魔物の住処が増えてこの辺りの道を通る度に誰かしらの住処に入ってしまう……つまり「聖獣が魔物をけしかける」のではなく「道を歩いているだけのつもりが歩くだけで魔物の住処に入ってしまっている程に魔物の住処が多いだけ」そういう事だったらしい。

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