第5話
国が変われば文化が変わる……という様に、この国とガルフツスカ王国では魔法の発展具合が全く違う。そもそも、この国の人たちは身分関係なく魔法が使える。
しかし、たとえ魔法が使えなかったとしてもそれが大きなハンディキャップにはならないと言う。むしろ「それも個性の一つ」とされている。
いや、それどころかそういう人材の方が希少とさえ言われているとか。
つまり「この国では自分はむしろ普通に分類される」とソフィアは思っていた。そして、それだけ魔法が発達している国だからこそ小手先の「誤魔化す」といった卑怯な手は使えないだろう。
現に……。
「――! ――!!」
「ん? なんだ?」
検問所があると思しき場所から何やら大声で揉めているのが聞こえた。
「おい貴様っ! その様な小賢しい魔法を使って我が国に入ろうとは言語道断!」
「待って下さい! 私はそんなつもりじゃ!」
「訳なら事務所で聞くからねぇ」
「そんな!」
大方、水魔法を応用して別人に成り代わっていた……というところだろうか。簡単に言えば、水魔法を使って「水の反射」を利用していたのだろう。
ただ、この魔法には大きな落とし穴がある。それは「動きが反映されない」という点だ。
要するに姿形は成り済ます事が出来ても、使用者の動きまで連動する事が出来ないのである。
しかし、使用範囲が顔だけか全身かは使用者によるのだが、それでもこの魔法を使おうと考える時点で彼女は相当な魔法の使い手なのだろう。
そして、それを見破った役人たちもそれなりの使い手という事になる。
「……」
そうなると……ひょっとしたら彼らはソフィアの存在を知っている可能性がある。
そもそもアーノルド殿下の外交に付いて行っていなかったとしても、ソフィアは彼の婚約者で聖女だ。
それをホゼピュタ国の……しかも役人が知らないはずはない……のだが、ソフィアは自分自身の自己評価がかなり低かったため「私みたいな地味な人間を知るはずがない」と思い込んでいてそれに気が付いていなかった。
ただ、この光景を見て一抹の不安が過ったのは確かである。
そもそもガルフツスカ王国と貿易を結んではいるものの友好関係か……と聞かれると実は微妙な関係値。そんな中で聖女、いや「聖女と偽って国外追放を言い渡された元聖女がこの国に入ろうとしている」と知られたら……と考えるだけで震えそうになった。
「――なぁ」
そんなソフィアの姿に気が付いたのか、リーダーはソフィアを小さく手招きをした。
「はい?」
「一個だけ……あの検問所を通らなくても森の方に行ける方法があるんだが……」
軽く耳打ちで言われた内容に、ソフィアは思わず「ほ、本当ですか?」と声が出てしまった。しかし、その声が若干震えていたのは……きっと不安が声で出てしまったからだろう。
「ああ。実はこの漁港の端に行くと森になっていてな、そこから山の方へ向かう事が出来る様になっているらしい」
「そ、そうなんですか?」
リーダーの言葉にソフィアは思わず首をかしげる。確かに、漁港の端。向こう側には緑が見える。しかし、それならばどうして……。
「皆さんはそちらに行かないのでしょう?」
ソフィアにはそれが不思議だった。
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