第3話
「――と、もうすぐだな」
ソフィアの航路の魔法は「ずっと魔法の使いっぱなしは疲れるだろ」という事と「急な進路変更や緊急事態に対応出来ない」という理由から使わずチンピラ……いや、船員たちが自分たちの持ち場に戻って元々の仕事をしていた。
「見えたぞ!」
「っ! あれが……!」
そして船はあっという間にホゼピュタ国が管轄している地域へとゆっくり入って行った。
「……よっと」
船を港へと向けていると、役員と思しき人物がこちら側に近づいてくる。
「――許可証をお願いします」
「はいよ」
先に船から出て慣れた様子で手続きに応じるリーダーを横目に船員たちは船を無事に港に着けた。
「確認しました。ありがとうございます」
そう言って役員は次の船へと忙しなく向かって行った。
「忙しそうですね」
「まぁな、ここら辺は港町だから俺たちみたいに外から来た連中にああやって色々と確認しなきゃなんねぇんだよ」
それを踏まえて考えると、つくづくこの人たちを引き渡しなんてしなくて良かったと思った。
そもそも武器を持っていたとして、まともに武器も持ったこともない一般人に魔法を使った事を先代の聖女に知られたら……と思うと思わず震えてしまう。
それくらい「魔法を使う」という事に厳しい人だったし、世間的にも「魔法」という力を持つ者としてかなり厳しい目を向けられる。
今回に関してもソフィアが「聖女」という肩書きのままであれば「正当防衛」と言えたかも知れないが、パーティーの一件が知られて「偽聖女」となれば多分。捕まっていたのはソフィアの方だっただろう。
そもそも、それなりに交流はあっても足を踏み入れた事すらない国だ。出来る限り目立たない様にするのは鉄則だろう。
「どうした?」
「いえ、なんでもありません」
「そうか。これからどうすんだ? もう決めたか?」
「そう……ですね」
ソフィアはそう言いながらチラッと奥の方へと視線を向けた。そこには大きな山がそびえ立っている。
「奥の山の方へ行こうかなと思います」
そう言うと、リーダーは「何、山の方にか?」と驚きの表情を見せる。
「はい。ホゼピュタ国は海も有名ですが、珍しい薬草もたくさん採れるそうなので、山の方に行けばこの目で見られるのではないかと」
「……」
「何か?」
「――いや、あんたのそんな楽しそうな顔を見たのは初めてだと思ってよ。そうなると……だ。まずは国に入ってそのまま山に向かって真っすぐ突っ切るが一番近道だろうが……」
リーダーはそこで一旦言葉を止めた。それは多分「国に入る前にソフィアの身元がバレる可能性」を案じてくれたのだろう。
「まぁ、多分大丈夫だろう。あんたの話を聞く限りこの国に足を踏み入れた事すらないみてぇだからな」
「ハハハ」
正直「第一王子の婚約者でありながら外交に動向せず顔も知られていない」という事実を笑っていいのかは分からない。
ただ、こうしてみると「意外と不幸中の幸いだったかな」とソフィアは思えなくもなかった。
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