第3章 新たな生活に向かっての第一歩。

第1話


「まぁ、俺たちはその辺りよく知らねぇ。お偉いさん通しの話なんて俺らには分かんねぇからな」


 リーダーは「ハッハッハ!」と笑うが、結局のところ貴族。いや、領主や王族が決めた事によって最終的に困るのは国民だ。


 果たしてこのリーダーはそれが分かって……いや、分かっていたとしても「俺たちみたいな人間が何を言ってもしょうがない」と最初から諦めてしまっている結果なのかも知れない。


「しっかし、あんたも大変なんだな。これからどうすんだ? ホゼピュタに向かう……って言うか、向かってんだろ? この船」

「はい。問題なく進んでいますので後の事は……とりあえず着いてから考えます」


 ソフィアはそう言いながら海に目を向ける。


「……そうかい。それにしても、俺はてっきりあんたが『船に命を吹き込む』なんて言いやがるから本当に船が動き出すんじゃねぇかって思っちまった」


 リーダーが思わず口にすると、他の人たちもそう思っていたらしく「うんうん」と頷いていた。


「それはご期待に沿えずすみません。ですが、実際枝が生えて随分と好き勝手に動いていたと思いますが?」

「いやいや、そういう事じゃなくて……だな。こう、自立して走り出す……みたいな。魔法騎士の連中の中にもいるだろ、何の変哲もない地面から大きな人型のを作ってよ」


 そう言いながらリーダーは走るジェスチャーをした。


「――なるほど。つまり、あなたがたは私の発言を聞いてゴーレムの様に船が動き出すと思っていた……という訳ですね」

「あーそうだ。ゴーレムだ。それとはまた違うのか?」


「そうですね……先程私は『植物は生きている』と言いましたが、土の場合は条件によって異なります」

「条件?」


「はい。ゴーレムを作れるのは確かに『土』ではありますが『畑の土壌』では作る事が出来ません」

「ほお? それは……あれか? 土質の違いってやつか?」


「そういう事になります。大体ゴーレムに適しているのは適度な耐久性があるものとなりますので……」

「確かに畑の土は耕しているのもあってか柔らけぇからなぁ。硬さの問題は確かにあるか」


 興味深そうな顔でソフィアの話を聞き入ってくれるチンピラたちの姿を見て、ソフィアは思わず笑いそうになった。


 知らない知識だからこそ好奇心が沸き立つと言う事か……。


 それに比べて魔法を知る殿下は……こうした話をしてもいつもつまらなそうな顔をするか「自分の知識をひけらかしているのか!」などと言われるかのどちらかだった。


「じゃあ、俺たちの事はその時にホゼピュタ国の兵士にでも引き渡しな」

「……いえ」


「ん?」

「あなたたちにはそのまま船員のふりをしてもらいます」


「は? なんでだよ。あんた自分が何をされたのか分かってんのか?」

「……はい。ですが、あなたたちを兵に引き渡すとそれはそれで騒ぎになってしまいます。先程あなたがたが言っていた通り全てが明るみになってアーノルド殿下に話も行くでしょう。ただ、私が国外追放を言い渡された身である事やその理由まではまだ伝わっていない可能性もあります」


「あー、要するに……だ。あんたはとりあえず平穏に何事もなく国を渡りたいって事でいいか?」

「話が早くて助かります」


 そう、ソフィアのそもそもの目的は「他国に渡る」という事だ。出来る事なら騒ぎが大きくなる前に人気のない森などに身を潜めいたいと考えているくらいだ。


「でもよ。仮に入れたとして――」

「こういう事もあろうかと元々あなた方はホゼピュタ国で使える許可証はもらっているのでしょう?」


 ソフィアは笑顔で尋ねると、リーダーは「ハハ、お見通しかよ」と観念した様にホゼピュタ国の入国許可証を見せた。

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