第8話


「な、なんだ?」

「この女、いきなり笑い出したぞ」

「怯むんじゃねぇ! こんなの窮地に追いやられて頭がおかしくなっただけだろうが!」


 リーダー格と思われる男性はいきなり笑い出したソフィアに引き気味の男性たちを鼓舞する様に言うけれど、正直当のソフィアは全く「窮地」だなんて思っていない。


 今笑ってしまったのはにとっての「世間知らず」という言葉はそれこそ公衆の面前で自分の事を「偽物」と罵り、そして婚約破棄を言い渡したあのバカ王子にそっくりそのまま言いたい言葉だったからだ。


 そんな殿下曰く「世間は『微笑みの聖女』だの『慈愛の聖女』だのもてはやされている」などと言っていたが、ソフィア本人がそう言って欲しいなどと言った事はない。


 むしろ周りが好き勝手に呼んでいたに過ぎなかったのだ。


 でも、周りから「聖女」として頼られるのは何も悪い気はしなかった。ただ、そこに至るまでどれだけ努力を積んで来たのかなんて、知る人は先代の聖女様。もしくは「聖女」として生きた人しか知らず、当然この男たちに限らず殿下たちも知らない。


 それはなぜか……。


 簡単に言ってしまうと、聖女に関する事は全て「機密情報」に当たるからである。


 そもそも「聖なる力」がなくても実のところこの「聖女になる為」の鍛錬自体は出来る。


 ただ、その場合は聖女に至るまでの時間は倍くらいかかってしまう。それに「聖なる力」がない状態ではそもそも鍛錬に耐えられるかどうかすら怪しいというのが本音だ。


 だから、そんな鍛錬を耐え抜いて聖女になったソフィアからしてみると、正直。いくらミリア様が公爵家の令嬢でたとえ魔法の成績が良かったとしても、本当に「聖女」と呼べるのかは甚だ疑問は残る。


 でも、こうして国外追放になったのは事実なのでこの国にはいられないし関係もなくなってしまった。


 言ってしまえばこの後ミリア様が「聖女」として据えられて思うような働きが出来なかったとしても、もはやソフィアは無関係という事になる。


「はぁ」


 ただ一つ心残りがあるとすれば毎朝声をかけてくれた朝市の人たちや国民にバカな貴族たちによる責任のしわ寄せが行ってしまうのは……少し心苦しくはあるが。


「や、やっぱり聖女って言うのが嘘だって話は本当なんじゃねぇか?」


 そんな中。一人の一番下っ端と思われる船員がボソッと口にしたのが聞こえた。


「……」


 その声は本当に小さかったのだけど、キチンとソフィアの耳に届き、そこで「なんでそれを知っているのだろう?」と疑問を持った。


 もちろん、どこかしらで噂として聞いた可能性は当然否定は出来ない。


 しかし、一番下っ端と思われる彼がその事を口にした事によって「これはあらかじめ仕掛けられていた罠なのかも知れない」と感じた。


 そんな中、リーダー格の男が発破をかけた事によりチンピラたちは各々武器を手にとり臨戦態勢を取る。


 たった今、彼の言った言葉が本当かどうか……それが本当だった場合。このチンピラたちをソフィアに仕向けた人間がいるという事になる。


 それはつまり、首謀者がいるという事を意味するわけなのだが……。


 どちらにしてもソフィアのやる事はただ一つ。それは「チンピラたちの戦意を喪失させる」という事だけだった。

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