第4話


「――はぁ」


 この事実にソフィアは「私は本当に殿下から何とも思われていなかったんだな」と言う現実を突きつけられた様に思えてしまった。


 でも、今こうして現実を目の当たりにした事によって「あんな男の為に人生を棒に振らなくて良かった」とも思えたのだから不思議なものである。


「そういえば……」


 アーノルド殿下はミリア様こそ「本物の聖女だ」とハッキリ言っていた。それはつまり「彼女を自分の婚約者として迎え入れる」と言っているに等しい。


 なぜなら、この国の言い伝えでは「聖女はこの国の王と結ばれなければならない」とされているからである。


 だからソフィアも本人の意思とは関係なく婚約を結ばされていたわけで……。


 しかし、仮にそうなれば第二王子であるジェラルド様の婚約者がいなくなってしまう。その辺りはどうするつもりなのだろうか。


「……ああ、だから」


 そこまで考えたところですぐにソフィアとお茶会をした事を殿下が「密会」と言った事を思い出した。


 やはり殿下たちはあの一件を盾に自身の弟であるジェラルドを貶めようとしていると思って間違いないだろう。


 しかし、やはりたとえ婚約者がいる者同士でもその相手が兄弟などの親類関係があればそこまで大袈裟なそれこそ「密会」などという話にはならないと思えてしまう。


 それでも今回この様な結果になったのは……あの場にいた高位貴族が第一王子派しかいなくてソフィアの味方が誰もいなかったという事。


 そして、その話が出るよりも前に「ソフィアが偽物の聖女」という前提で話が進んでいたという事が大きかったのだろう。


 それによって完全にソフィアが悪者。いや「聖女と偽った悪女」と言う形が仕立て上げられてしまった。


 でも、結界を毎日見に来ていたのは事実だったのもあってそれを否定する事は出来なかったのも確かだ。


 そもそも下手に否定しようものならきっと「教会の関係者」とか言う人間の証言が出てきていただろう。


 ひょっとしたら「教会の関係者」だけでなく他の人。いつも話している朝市の主人がそれを証言していた可能性だってある。


 でもそれは「聖女だという事を否定する為に利用される」なんて知らされずに使用されていた可能性も否定は出来ない。


「……」


 色々と思うところはあるけども、これらはあくまで「今となってはそう思う」程度の話。実際のところどうなのか分からない。


 それでもきっとこの話をする順番に関しては殿下に今回の話を吹き込んだ連中は伝えてあったのは分かる。


 そう考えると、やはりアーノルド殿下はただの操り人形に過ぎなかった……と言う事になるのだろう。


「相手の作戦勝ちって事ね」


 ソフィアにしては完全にしてやられた様なものだったけど、最後の最後にアーノルド殿下の悪い癖。いや、欲が出た。


 その結果が「国外追放」の今だとしたらそこだけは殿下の強欲さには感謝しなければならないかも知れない。


「さて、これからどうしよう」


 きっとこの家はすぐに取り壊される事になるだろう。早ければ明日か……遅くとも三日以内には。


 つまり、ここに戻る事はもう出来ない。


 そもそも国外追放を言い渡されて留まっているのも危ない。そうなると移動しなければならないのだが……。


「どうせなら海の方に行ってみようかな」


 いつも山の方へは結界を確認する為にほぼ毎日の様に登っている。そして、その山を越えた先に国がある事も知っているし、そこの王族とも面識はある。


 ひょっとしたらもう既にその王族に今回の一件が報告されている可能性はある。


 確実性を取るのであれば「山の方ではある。でも、せっかくなら今まで体験した事のない事をしてみたい」とソフィアは思い立ち、山とは反対側の漁港の方に行く事に決めたのだった。

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