第10話


「み、密会だなんて。私は知りません!」


 ただえさえ「ソフィアが聖女ではない。その力を持っていない」と言われただけでも驚きなのに、さらに「密会」と言われてはさすがのソフィアも笑顔のままではいられない。


「しらっばくれるな! 貴様がジェラルドと仲睦まじく茶を飲んでいたのは知っているのだぞ!」

「っ!」


 確かに一度だけジェラルド様と二人きりでお茶会をした事はある。


 でもそれは殿下がソフィアと定期的に行っているお茶会をすっぽかし、またその時ジェラルド様もミリア嬢からお茶会の約束をすっぽかされたらしく、彼の方から声をかけられたからだ。


 そもそも、第二王子である彼の誘いを断るのは恐れ多かったというのもあるが、これを断った事によって「聖女は王族の誘いを断った」という噂を立てられるのもいやだった。


 だからその誘いを受けた……ただそれだけの事だった。


 そしてあれを殿下が言う通り『密会』というのであれば……それは一度きりとは言え事実ではある。


 ただ「本当にあのタイミングは偶然だった?」と問われると、偶然にしては出来過ぎている……とは今となって思う。


 ここまで来てようやくソフィアは「聖女ではない」というだけでなく「婚約者がいる身でありながら婚約者がいる相手と仲良くする」という行為をした人間として殿下たちはソフィアだけでなく、ジェラルド様も社会的地位も脅かそうとしている事に気が付いた。


「……」


 そして、ここでようやく「自分が嵌められた」という事にも気が付いたソフィアは、自分のあまりの不甲斐なさに項垂れるしかなかった。


「貴様は私と言う婚約者がいる身でありながら我が弟をたぶらかし、さらには聖女と偽った言わば悪女だ!」


 正直。ここまで来てしまうともはや「いえ、誘ってきたのはジェラルド様の方です」とすら言う気力も起きない。


 それにしても……ここまでハッキリと言い切れるという事は、きっと証拠も「教会の関係者」だけではない様々な物があるという事なのだろう。


 これまでの殿下の発言やそれらの証拠がたとえ偽りの物だったとしても、このまま「聖女」という肩書きがなくなってしまえばソフィアは元孤児で侯爵令嬢でしかない。


 そして、この「貴族」と言う肩書きすら失う可能性が高い。それに、ソフィアの身分はあくまで侯爵。王族である殿下と公爵令嬢であるリリー様とでは魔力抜きの「権力」の差では歴然だ。


 しかも、ソフィアを受け入れてくれたホワイト侯爵夫妻は実はもうこの世にはいない。


 そして、使用人たちの就職先を斡旋してその後はずっと身の回りの事は一人でこなした。


 その辺りは教会育ちだった事もあり、何も苦ではなかったのだが、今の私は天涯孤独の身ではあった。


 それにしても、これだけの事を殿下に出来るとは到底思えない。きっと裏には当然彼を操っている存在がいるのは火を見るよりも明らかだろう。

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