第8話


 それに、ここで「結界の確認はしていましたが、それは決して嘘の為ではありません!」と主張したところでそれを証明する方法がない事もそうだが、現にソフィアが毎日確認しに行っていたのは紛れもない事実だ。


 それならばもはや話題を変えてしまった方が良いだろう。


「いえ、私の記憶ではミリア様は殿下の弟君で第二王であるジェラルド様の婚約者だったはずと記憶していたので」


 そう、実はミリア嬢は第二王子の婚約者だったのだ。


 ただ、ミリア嬢自身も今回魔法学園卒業するのでパーティー自体に参加しているのは何も問題ではない。


 ただ問題なのは隣にいあるのが婚約者であるジェラルド様ではなく、本来であればソフィアの婚約者であるはずのアーノルド殿下の隣に寄り添うように立って、ソフィアと対峙している事である。


「なぜ? 彼女こそが本物の聖女だからだ!」

「……なっ」


 この殿下の言葉にソフィアは開いた口が塞がらなかった。なぜなら、そんな話を聞いたこともなかったからだ。


 そもそもミリア嬢の「魔法鑑定」の結果は「赤魔法だけ」だったはずだ。


 それは彼女の家。ルージュ家はその名前から連想される様に真っ赤な炎を使う「赤の魔法」の優秀な魔法士を出している名家でもある事に由来する。


 そしてこの「赤魔法」は攻撃。つまり「攻める」魔法として知られており、本来「守り」を主体とする聖女の力とは真逆の存在のはずだ。


 そんな彼女がその両方の力を有しているとは到底思えない。たとえどんなに彼女が優秀な魔法士だったとしてもだ。


 しかも、本来は優秀であるはずの彼女が「聖女は全ての属性の魔法を使う事が出来る」という事を知らないはずもないのだ。


 ただ、一つだけ懸念があったとすれば、実は聖女がいなければ本来であれば彼女が殿下の婚約者になる可能性が高かった……という事だ。


 しかし、私と彼女だけでなく、ジェラルド王子とも実は何度もお茶会をして顔を合わせて話した事がある。


 でもそれは何事もなければ将来的に義理の姉妹になるという事もあってか、ミリア嬢の方からお誘いしてくれた。


 これはむしろミリア嬢の気遣いだったとソフィアは思っている。


 なにせソフィアは孤児でミリア嬢は公爵家の令嬢だ。


 本来であればそもそもの立場が全く違う。だからこその気遣いだったのだろう。


 それなのに、そんな彼女が今は自分の目の前に立っている。


 これはつまり、今までのお茶会を通じて「自分との立場の違いを弁えろ」という事を意味していたのなら……とソフィアは悲しくなった。

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