第5話
ただ、その結果が出てその場で言うのではなく、今になって「あれは嘘だ! 偽りの結果だ!」などと言い出す方がおかしい。
それこそ「頭がおかしくなったか」とか「どうかしている」と言われてもおかしくない程の事を殿下は言っているのだ。
なぜなら、この鑑定結果に異議を唱えるという事は、国王陛下。つまり国に異議を申し立てるのと同等な行為と言っては過言ではないからだ。
それにしても、果たして殿下がそこまで分かった上でこんな事を言っているのか……多分、何も分かってはいないだろうが。
そもそも、自分がどうしてここにいるのか……。
でもそれはアーノルド殿下の方から「貴様も婚約者ならば俺の門出を祝福すべきだろう」と言ってきたからである。
本人は「門出で祝福」などとほざいているが、ソフィアからしてみればこれは全然嬉しくもなんともない。
むしろ「これからが地獄の始まり」とすら思っている。
なぜなら、この卒業パーティーが終わってすぐ本来であれば正式にソフィリアはアーノルド殿下と結婚する運びになっていたからだ。
しかし、婚約をしている今ですら殿下の尻ぬぐいをしている状況。
そんな中で結婚をすればそれこそもう逃げる事すら出来ずに「王宮」と言う籠の中に入れられる。
でも、聖女であるソフィリアに選択肢はない。だからこそ、受け入れるしかないと覚悟を決めていた。
それ故に「卒業パーティーに出ろ」と言う殿下の言う事も一理あると考えた上でこのパーティーに出席したにも関わらずこの茶番。
一体どうしてくれようか……。
「そもそも世間では貴様の事を『微笑みの聖女』だの『慈愛の聖女』だのもてはやしているが、俺はそのいつ何時も笑顔を絶やさない貴様の笑顔で不気味でならなかった!」
この言葉を聞いた瞬間。ソフィアの中で何かが「プツリ」と切れたのを感じた。
そもそもこれは婚約が決まって初めて会った時。どうやら第一印象が相当暗かったのか「陰険女」と言い「女は笑顔で俺の後ろにいろ」と殿下本人が言ったのだ。
元々「聖女はどんな時でも笑顔でいる事」と言われていた事もあり「この事だったのか」と納得していたくらいだった。
そして、その日からソフィアはずっと笑顔を心掛ける様になった。
「……」
そんなソフィアの心意気をこんな風に言われて何とも思わない訳がない。
でも、ここで下手に感情を表に出しては彼の思うつぼだ。それこそ「やっと本性を出したな!」とでも嬉々として言うに違いない。
それが殿下からは透けて見える。だからこそ、ソフィアはあえて笑顔のままで彼の言い分を聞いていた。
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