第3話
これに関しては正直なんと答えればいいのか分からない。しかし、その反応からどうやら主人はすぐに答えに行きついた様だ。
「……」
ソフィアの婚約者である「アーノルド殿下」はこの国の第一王子で、この婚約は昔からこの王国の言い伝えによってソフィアの魔法鑑定の結果を受けてすぐに取り決められたものだった。
ただ、これ自体は歴代の聖女皆国王または王子と結婚する決まりになっており、先代の聖女の場合は国王が既に結婚した事もあり「側室」として王宮に入った。
だからこそ、先代の聖女が失踪したあの時。本来ならもっと本格的な捜索をするはずなのに「新しい聖女がいるから」という理由からソフィアからして見るとあまり真剣に捜索しているとは思えなかった。
そしてこれには実は「後から入って来た側室ではあったものの、聖女だった時は手が出せなかったが、そうでなくなったのならば……」とこの失踪事件には聖女を嫌う者たちが裏で糸を引いているかも知れないと言われている。
これに関してはソフィアも「その可能性はあるかも」と思っている。
なぜなら、実は「聖女」と鑑定されるのは今までの聖女全員「庶民」や「孤児」だったからだ。
「彼が言いうには私のやる事は全て『余計な事』らしいので」
「そんな事はないと思うけどなぁ」
主人はそう言ってソフィアを気遣ってくれているが、結果としてそうなっているのだから仕方がない。
「あんたが薬をくれた事で私の腰痛が改善どころか治ったのは事実だし、こうして朝市にだって何事もなく出来ている。それが答えでいいんじゃないのか?」
「……」
きっとこれは「この平和な日々が送れているのは私の結界のおかげ」と露店の主人は言ってくれているのだろう。しかし「私は殿下に嫌われている」これは紛れもない事実だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「長い時間話してしまいすみません。私はこれで」
「あ、ちょい待ち」
帰ろうとするソフィアに主人は自身の娘が焼いてくれたと言うクッキーを渡してくれた。
「これは?」
「毎日頑張る聖女様にってよ」
「そ、そんな。私はただ自分に与えられた仕事をしているだけで……」
「気にすんな。元々あんたに渡すために作ったんだから」
「で、でも……」
「あんたの周りがどう言おうが少なくとも俺たちはあんたの味方だ。気にせず受け取ってくれ」
そこまで言われては拒む方が失礼になる。そう感じたソフィアは「それではありがたく」と言ってクッキーを受け取り、朝市を後にした。
「……」
そしてふと振り返ると、市場はまだ開かれる前でと言うのに準備をしている今でも既に活気に満ち溢れていて、ソフィアにはそれが無性に眩しく見えた。
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