第10話 召喚2日目3:火炙り

その後もほぼメイ一人の手によって、一方的に魔王軍の兵は倒されていった。ロマンも何もあったものではない。


 一通りの雑魚狩りを済ませ、遂に俺たちはボス部屋の前までたどり着いた。


 だが、少々問題が……俺たちの目の前には見上げる程の巨大な黒い門が立ちふさがっている。押しても引いても、全く動かない。


「食らえ!我が渾身の一撃。」


 ガルドさんが魔術による強化を施し、斧で門を切りつける。だが、門にはひび一つ入らない。


「困ったな、こんなところで引っかかっているわけにはいかないのに。」


 真面目な進太郎君は、歯がゆさを感じているようだ。まあ、正直、ここまでがペース速すぎただけに俺は少し安心していたんだが。


「進太郎殿焦ることはない。籠城戦は気を長くして行うものだ。」


「でも、その間に魔王軍に逃げられるかも。」


「それでも構いませんよ。この神殿には、魔王がいるわけではないのです。雑魚を深追いする必要はありませんから。」


 ガルドさんとメイの説得にかかる。




「……わかりました。撤退しましょう。」


 完全に納得している様子ではないが、進太郎君も承諾してくれたようだ。




 神殿から最も近い、石畳に木組みの家が並ぶ村。進太郎君は神殿をもう少し調査したいらしく、俺とメイだけで宿屋のあるこの村まで先に戻った。すると、何やら騒がしい。


 人だかりができているようなので、俺とメイはそこに近寄った。ヤジを飛ばす人々、人込みをかき分けると、彼らが視線を向けていたものが見えた。


 犬の耳をした獣人や、エルフなど数名の魔族が磔にされていた。


「一体何があったんだ?」


 村人の男の一人に聞いてみると、不機嫌そうに答える


「ああ勇者様、また奴隷どもが反乱を企てたんですよ。全く困ったものです。」


「なるほど。反乱か。」


 反乱の理由は聞くまでもないだろう。魔族を一律に奴隷として扱う人類への怒り。気の毒な事なことだ。


「靴を舐めてあたしらに忠誠を誓えば、指1本で許してやるよ。」


 獣人の男に向けてそう言い放ったのは、この村に駐在する騎士たちのリーダー。


「ふざけるな!人間どもに頭など下げるなら、俺は死を選ぶ。」


「ああ、そうかい。じゃあお望み通り殺してやんよ。」


「ふん早く殺せ。」


「誰が最初にお前を殺すと言ったんだい?騎士たちよ、エルフの服を脱がせろ。燃えたら服がもったいない。」


「何だと?」


「女の悲鳴っていうのは、よく通るからね。火炙りにして見せしめるにはちょうどいい。」


 衛兵たちに、服を脱がされ丸裸にされたエルフの女。その表情は恐怖に怯え、ただ泣きじゃくることしかできない。その足元には丸太が敷き詰められている。


「まさか、やめろ、やめてくれ。」


 獣人の男は青ざめた様子で懇願する。しかし、誰も聞く耳を持たない。


 一人の騎士が丸太に向けて、杖を突きつける。次の瞬間、杖から火の魔術が放たれ、たちまち丸太が燃え上がった。


「いや、やめて、きゃああああ!」


 悲痛な叫び声をあげ、悶えるエルフ。その光景を見て、仲間の魔族たちは言葉を失った。俺はこのむごい光景を黙ってみていた。ただ目をそらすことだけはしなかった。


「何と悪趣味な!これが同じ言語を解す者への仕打ちですか!?」


 メイは怒りに震え叫ぶ。だが、先ほどの村人の男は呆れたように笑った。


「お嬢さん、あなたは甘すぎる。いいですか、言語を解するだけで魔族は他の動物と変わりません。彼らは穢れ、劣っているんです。なのに我々に反乱を企てるなど、身の程知らずにもほどがある。思い知らせてやらなければ。」


「それは、侮蔑的発言です。取り消して……」


「メイ、やめろ。」


 俺はメイの肩を強くつかんだ。メイは俺を睨みつけたが、俺も負けじと彼女を見つめる。一瞬の沈黙のあと、彼女はしぶしぶ黙り後ろに下がった。


「うちのメイドがすまない。この世界にまだ慣れてなくてな。多めに見てやってくれ。」


「そうですか、まあ、そういうことなら。」


「俺たちはこれで失礼するよ。」


「ええ、お達者で。」


 男に別れを告げ、俺たちは人だかりから足早に立ち去る。だが、メイがこれで納得するほど簡単ではなかった。


「やはりおかしいです。直太様は見て見ぬ振りをするつもりですか。」


「お前だって魔族を殺しまくってただろう。」


「魔王軍はテロリストです。武器を持ち、我々の命を狙っていました。しかしこの村で奴隷とされていた者たちは違います。差別を受け、無抵抗の状態でいたぶられ殺されたのです。」


 俺はその場に立ち止まり深くため息をついた。メイの言っていることは正しい。当たり前だ。彼女はアンドロイドなのだから、まず間違いはあり得ない。しかし、今俺はその正しさを捻じ曲げなければならないのだ。


「俺たちの世界に、犬耳の生えた人間はいたか?」


「いえ……」


「じゃあ、3メートルを超える緑色の肌を持つ人間は?異様に耳の長い1000年を超す寿命を持った人間は?」


「おりません。」


「魔族は人間じゃない。俺たちの世界でも、ここでも。」


 そうだ、魔族は人間じゃない。俺たちが見ていたのは、動物に対する見せしめという名の調教。気分のいい物ではないにしろ、必要な事なんだ。


「しかし、千穂様ならきっと。」


「確かに千穂なら助けたかもな。だけど、俺一人じゃ人類と対立してまで魔族を助けられない。それとも、それだけの覚悟を俺に求めるのか?」


「おっしゃる通りです。申し訳ございません。」


 ここはゲームの中の世界だ。魔法も魔族も空想上の存在。いくらリアリティがあっても、作り物にすぎない。俺は必死に自分に言い聞かせた。


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3日で裏切る召喚勇者 @shimaraiki

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