こんな【マッチ売りの少女】はイヤだ。

レッドハーブ

こんな【マッチ売りの少女】はイヤだ。

それは、さむいさむい大晦日おおみそかの夜……。あたりは薄暗うすぐらく、しんしんと雪が降る寒い夜の中、一人の少女が歩いていました。


「マッチはいりませんか?だれかマッチを買ってください……」


エプロンをした少女はボロボロの格好でした。エプロンにはたくさんのマッチが入っています。


「マッチを……だれか…マッチを……」


しかし、マッチを買う人は1人もいませんでした。

しかたなく少女は家に帰り、ことの顛末てんまつを社長に話しました。


「社長…マッチが売れませんでした。わたしには無理なんですよ……」

「『無理』というのはですね、嘘吐うそはきの言葉なんですよ」

「……え?」

「途中で止めるから無理になるんです。途中で止めなければ無理じゃ無くなります」


(なに言ってるの?この人……!?)


「いえ、『無理だから途中で止めてしまう』んですよね?」

「止めるからダメなんです。どれだけ体調を崩しても、とにかく全力で一週間!そうすればその人はもう無理とは口が裂けても言えないでしょう!?」

「……そう……ですかね?」

「無理じゃなかったって事です。実際に一週間やったのだから。『無理』という言葉は嘘だった、ということになりますね?その後は……あれこれ……くどくど……」


(わからない……!社長の言ってることがなに一つ……!)


少女はしぶしぶさっきの場所にもどり、マッチを売り続けました。しかし、結局売れませんでした。ほどなくして地べたに座りこんで、丸くなりました。


(どうすればいいの……?)


会社に帰る勇気はありませんでした。もどれば、社長の詭弁きべんとしかとれないお説教が待っているからです。


「そうだ。マッチであたたまろう…」


……シュッ!


と、こするとあたたかく、まるで大きなストーブの前にいるようでした。


「あったかい……」


しかし、マッチの火は消えるとストーブも消えてしまいました。次々とマッチを擦るとその度に豪華ごうかなごちそうや、大きいクリスマスツリーがでてきました。しかしそれはどれも幻想でした。


少女はもう一度マッチをすると、少女のまわりを光がつつみこんでいきます。その光の中には死んだはずのおばあさんが立っていました。


「おばあちゃん!わたしを一緒に連れてって!」


少女は今までのことをぜんぶ話しました。


「……つらかったね。いいよ、おばあちゃんと一緒にいこうか?」

「うん!」

「でも、その前に…やることがあるねぇ」

「?」

「うちのかわいい孫娘をこんなボロボロにした会社に挨拶あいさつにいく必要があるねぇ…」

「おばあちゃん、いいよ…」

「ダメよ。あたしの怒りの炎はね、そのマッチの火なんかよりもとても大きいからねぇ!」


おばあさんは目が笑っていませんでした。


「マッチが売れ残ってよかったよ〜。これだけありゃあ充分だ……」


おばあちゃんと少女は光につつまれ、会社のまえに行きました。


なにやら話し声が聞こえてきます……。


「でも、社長。なんであんなみすぼらしい格好をさせたんですか?」

「決まってんだろ!?売上アップのためさ!ボロい格好させた方が客が同情して買ってくれるかもしれねぇだろ!?」

「なるほどねですね〜」

「「「 ぐわっはっはっは!! 」」」


「……お……おばあちゃん?」

「あたしの怒りの炎に……油を注いでしまったようだねぇ!!」


おばあさんは売れ残ったすべてのマッチに火をけ、会社にばらまきました。しばらくすると会社が燃え始めました。燃えさかる炎に紛れて悲鳴が聞こえてきます。


「うわああぁぁ!ワシの会社がぁ〜」

「社長ダメです!もう会社は諦めましょう!」

「は、はなせぇ!!」


ボオオォォォ……


「ふふふ、皮肉な話だねぇ、自分たちがつくったマッチで自滅するんだからねぇ」

「そうだね、おばあちゃん」

「……とどめよ。喰らいなさい……!」


おばあさんは一本のマッチに火をけ…

にっくき社長とその側近そっきんの頭にそれぞれ落としました。


「ん?あちちち!ワシの髪の毛がぁ〜」

「しゃ、しゃ社長!?って、オレもあちちち!」


「あ〜スッキリした。さ、もう天国へいきましょう。ボロボロの少女1人に救いの手をさしのべない無情の世界に……もうなんの未練もないでしょ?」

「うん、いこう!おばあちゃん!」


こうして、きちんとお礼参りをした少女とおばあさんは、燃えさかる会社と無情の世界に中指をたてながら、天へのぼっていきましたとさ。

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