第13話 コイバナである!
休み時間。
いつものように俺と松林の机を中心に集まる友人ズ。
ただし芹沢の姿はない。まあ、あいつらは俺たち以外にも、女子としての交友関係が広いから当然だ。以前もロアナといつの間にか仲良くなっていたせいで、大変な目に遭った。
まあそんなわけで、今この場にいる友人は松林と橘の二人だけだ。
「なあ松林。なんだか芹沢、変じゃないか?」
さて、だから俺はそんな風に話を切り出した。
ふとクラスメイトと話している芹沢の方を見れば、何とはなしに目が合う。それで驚いたように芹沢が顔をこわばらせて、無理やり目を逸らす――なんてことの繰り返しだ。
明らかにおかしい。と思ったので、友人ズに聞いてみれば。
「んー……確かに変だね。いつもより二割増しで柊くんのこと見てる」
と、そんな風に橘が俺の疑問に同意してくれた――って二割増しって……あいつ、そんなに俺のこと見てるのか?
「そんなに変か? いつも通りって感じじゃねぇかな」
なお、松林は首を傾げて疑問顔だ。
「まあ松林くんの意見は参考にならないから措いておくとして――」
「おい橘ァ! どういう意味じゃゴラァ!」
橘の言葉に怒る松林。
しかし――
「え、だって松林くんって女子の機微とかわからないからモテてないんでしょ?」
「そうだよチクショォォォォ!!!」
あんまりにも残念な事実に、たった一言で松林は敗北してしまうのだった。
涙を流して膝を折る松林のことは措いておくとして、芹沢についてだ。
「やっぱり変だよなあいつ」
「そんなに気になるんなら直接聞いてみたらいいんじゃない?」
「あー……まあ、そうだよなぁ」
俺に話したいことがあるならそれでいいが、隠したいことがあるんならあんまり暴きたくはない。そんな気持ちだ。
「ま、僕はとやかく言わないよ。気になるなら聞けばいいし、本当に問題があるならそのうち話してくれるでしょ」
「それもそうだな」
何か大きな事件があったわけでもないし、喧嘩をしたわけでもない。急ぐ理由が何もない以上は、様子見で十分だろう。
◆
私――芹沢透子は、とある秘密を知ってしまった。
あの大人気配信者プロムロアナちゃんと、クラスメイトの渡辺が同居しているという秘密を!!
「だからってどうすればいいのさ……!!」
誰にも気づかれないような声で、小さくそう呟いた私。
それに気づいたのは先週のことで、休みの間は二人の関係が気になりすぎて何にも手が付かなかったぐらいだ。
でも、もっと気になるのは渡辺とみのりちゃんとの関係。
あの二人、付き合い始めたんじゃなかったっけ!?
「むむむ……これはどういうことなのか……!」
そして立ち上がるはこの私! 恋愛探偵の登場だ!
この程度の謎、私にかかればマルッと解決!
……いやいや別に私にもチャンスがありそうとか思ってないないないない。
とりあえず、まずはロアナちゃんとみのりちゃんの二人の様子でも調べる私。
しかし特に怪しげな様子は見つからない。ロアナちゃんも、もちろんみのりちゃんも。どういうことだろう。私だったら、彼氏ができたせいでテンションぶちあがりすぎて天井に突き刺さってる頃合いだと思うんだけどな。
なんだか怪しい……。
とりあえずこのまま二人のことを観察していても埒が明かないので、次なる作戦に出る私。
「ねぇねぇロアナちゃん」
「なんだ?」
「ロアナちゃんって気になってる男子とかいるの~?」
コイバナ式先制攻撃ぃ! ちょっと作戦が直接的過ぎる? いいや、私は一向にかまわない! 勝負なら突き進むのが私の信条だよ!
「ふむ気になる……か」
ロアナちゃんと佐渡の奴が同居してるのは、私以外は知らない秘密――のはず! そもそもあのロアナ姫、話題になってないはずがない!
そして秘密にしてるなら、例えロアナちゃんがこれっぽっちも佐渡のことを意識してなくても、少しは何かを隠すような仕草をするはず――ってそんな羨ましい状況なのに意識しないとかもやもやするなぁ!
「あ、それ私も気になる~」
「お姫様の恋愛沙汰、でありますか。いいですね、こちらも興味津々と言わせてもらいましょう」
みのりちゃんと
「吾輩には愛している奴がいる」
んぅ~??????(石化する私)
ロアナちゃんのその言葉は、恥ずべきところなど一つもないと言わんばかりに堂々とした佇まいなものだから、冗談にしか聞こえないけど。
けど、真実だと思えるぐらいには、彼女は純粋で、まっすぐにそう言った。
「あ、愛してる!? そ、それってどんな感じでありますか!?」
ロアナちゃんの言葉に食いつく穂香ちゃん。メモ帳片手に興味津々な彼女に対して、ロアナちゃんは言った。
「配信者のプライベートは覗くべきではないぞ、ホノカ」
「その通りです姫様!」
びしっと敬礼を決める穂香ちゃん。その横でようやく復活した私は、続けざまに質問する。
「いやでもやっぱ知りたいよ! もしかして……このクラスの男子だったりする?」
ええい、もう狙い撃ちだ狙い撃ち! いけいけどんどんロアナちゃんは佐渡のことどう思ってんのさ!
「我が愛は吾輩だけのものである!」
「くっそ~~~!!!」
「許せ。吾輩とて、愛を語るのは恥ずかしいのである」
「めっちゃラブじゃん!!」
ああもう顔赤くしちゃってさ! すごい乙女の顔してるよこのお姫様!
ま、不味い不味いこれじゃあ私に勝ち目がない――ああいや、みのりちゃん! みのりちゃんは確か佐渡と付き合い始めたんだよね――
「みのりちゃんは!? みのりちゃんは好きな人とかいるの!?」
「え、私!?」
急に話を振られて、びっくりした顔になるみのりちゃん。
彼女はすこしだけんうーんと唸って考えてから、
「そういう人、私はいないかなぁ」
この女、演技が上手すぎる……!!!
ちょ、前に告白してなかったっけ!? それで成功してなかったっけ!? え、私の見間違い!?(正解)
「好きなタイプでもいいから!」
「私のことを受け入れてくれる人?」
「答えに困ったときの答え!!」
ああだめだこれ二人とも鉄壁過ぎて探りが入らねぇ!!
「ふむ、では透子ちゃんはどのような殿方が好きなのですかな?」
「ちょ、穂香ちゃん!?」
と、そこで話題の矢が私に向いた。
「不公平でありますよ、透子ちゃん。自分だけは安全地帯で、お二人の恋愛話を聞いて楽しむなど――」
「そういう穂香ちゃんはどうなのさ!」
「私にはもう既に彼氏がおります故」
「え」
「え」
「ほお」
え、彼氏居たの穂香ちゃん?
「『銃剣輪舞』のスー君でありますぞ! 歴戦の猛者でありながら実直な姿は誰もが引かれる魅力がありましてな――」
「ああ、ゲームの話ね」
「私は真剣であります!」
まあ穂香のゲーム好きは措いておくとして。
……え、私が好きな人について白状する番?
「それじゃあ透子ちゃん。透子ちゃんは一体誰が好きなのかな~?」
「あ、ちょ私が小さいからって背後から持ち上げないでよみのりちゃん!」
「だって普通に捕まえるだけじゃ、透子ちゃん力強すぎて振りほどかれちゃうもん」
「さあ白状するがよいトオコ! 吾輩らを謀った代償は重いと知れ!」
「いーやー!!」
必死に抵抗するも、私と違って背の高いみのりちゃんの腕から脱出できず、観念した私は素直に話すのだった。
あ、もちろん個人名とかは伏せてたからね! 伏せてたからね!!
「気になってる人は居るけど……その人が告白されてる現場見ちゃってさ~……」
「なぬっ!? それは一大事だな!」
「しかもOKって聞こえてきたから……!」
「うわぁ、きっつい奴だ。ちなみに誰とか教えてくれたりする?」
佐渡だよ!!
ロアナちゃんとみのりちゃんががっつりかかわってる話だよ!!
なんて叫ぶわけにもいかず。
「言いたくない~!!」
半泣きになった私の話を最後に、コイバナは終わるのだった。
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