最後の試練
しばしエルクリッドはクレスティアと共に数多の星広がる空を見つめ続け、エタリラという世界の事を知る。曰く、その一つ一つが世界であり、かつてクロスが旅した時に行われた星送りの儀や、ある領域に到達した者へ使者を出して呼び出す事は新たな神を送り出すという。
それはアセスとなり真化の果てに神の領域へ踏み込んだ者が選ばれるということ、永遠の別れを意味する行為、だが強さ故に何もしなくとも世界に悪影響を及ぼす事から旅立つ必要があると。
無論それを拒むものや、単純な強さだけでなれないということも。そしてリスナーの役目がどのようなものかも、その真実を。
「それじゃあ、あたし達リスナーは神になる存在の教育係みたいな……」
「別れていてもその思いは永遠に繋がっている、リスナーである者はその経験を糧としてより成長する。そういう仕組みはエタリラという世界で自然とできたもの、私が種を蒔いたとはいえそこからさらに進んで今の形となった……そんなところです」
神すら及ばぬもの、予想のできないもの、変革、進化、可能性、そこからさらに広がる一つ一つのものが新たな世界となり、また広がっていく。
人の営み、生命の営み、世界の理と密接に結びつきながらも独立したもの。そうしたものを知り、クレスティアという神が神としてではなく一つの存在として対等に会話をするというのも、エルクリッドが向き合うべきものへの覚悟を確かなものとする。
(あたしが、神様にお願いすること……ここでやるべき事は……)
アスタルテは生きる事を望む、本能的に。いずれそれは災いとなり再び火の夢のような出来事を起こすかもしれない、あるいはエルクリッド自身を変えてしまうかもしれない。
良い方に行くならともかく、悪い方になってしまうのは心苦しさがある。もし変えられるならば、抗えるならばと、エルクリッドは席を立って深呼吸をしてからクレスティアに思いを伝えた。
「クレスティア様、あたしの中のもう一つの心……アスタルテと、向き合う為に力を貸してください」
「消し去るのではなく、ですか?」
はい、とクレスティアの問いかけと凛とした眼差しに心の奥底まで見透かされるような心地になるが、エルクリッドの思いは揺るがず言葉を紡がせる。
「あたしに纏わる色んな事……それを終わらせるのはあたしの役目なのは間違いなくて、ただ力で解決するとか消すとかは簡単だけど、それじゃ駄目だって事はわかるんです。何となく、ですけど」
静かに心の奥底でアスタルテが耳を立てている感覚がエルクリッドにはあった。そして、彼女の思いに関して小さな疑問が浮かぶ。
アスタルテと向き合う事の意味を通して何か得られる、それが良いか悪いかまではエルクリッドにもわからないが、そうしなければというのは直感していた。
「わかりました……貴女が望むのならば力をお貸ししましょう。ですが、それは貴女にとって最も過酷なものになるやもしれません、それでも、よろしいですか?」
「もちろんです! その為にここに来ましたし、そう答えると思ってたから神様もあたしを呼んだんでしょ?」
「ふふっ、そうですね」
快活で前向きなエルクリッドの笑顔と明るさにクレスティアも微笑みながら静かに通路の方へ指を向け、そこにいつの間にか現れていた真っ赤な扉を指す。
先程まではなかったものなのは言うまでもなく、エルクリッドがその前に立つと異様な重圧感と扉の奥から何か聴こえてくるような不気味さがあった。
「その中に貴女の求める答えを見つける試練が待ちます、一度入れば終えるまで戻れない……どんな結果になろうとも、受け入れる覚悟ができたなら進んでください」
待ち構えているものが何なのか、それはエルクリッドにもわからない。だがクレスティアの言うようにどんな結果であろうと受け入れなければならない事と、避けて通れぬ道なのは間違いない。
両頬をいつものようにパンっと叩いてからよしっと気を引き締め、エルクリッドは扉を開けて暗黒の広がる中へと飛び込む。最後の試練、その先に進む為に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます