刹那の一射

 素早く蛇行しながら煙の中をローレライが泳ぎながらイェーガーへと突撃し、それを跳んで避けたイェーガーは着地までの間に素早く矢を何度も放ってローレライを射抜く。

 しかし半透明の身体持つローレライの身体には矢は深く刺さらず包まれるようにして止まり、やがて落ちて煙の中へと消えた。


(特異な身体だな……)


 イェーガーがそう思いながら着地し、赤い光を浴びせて焼き切らんとするローレライの攻撃を避ける間にクロスが分析を進め、それに対しエルクリッドも思考を張り巡らせいかにしてイェーガーを制するかを導く。


(ローレライの身体は普通のやり方じゃ貫けないけど、すぐに見抜いてくるはず。だからあたしがしっかり守りを固めて、倒す機会を作らないと)


 魔獣であるローレライの能力はクロスにとっては未知数のものだが、リスナーは初見の相手でも経験やその場の分析で最善手を繰り出す。

 攻撃を避けているイェーガーが矢をとり構えて放ちローレライの身体がボヨンと弾くが、一射ずつ確実に当てながら何処が最も刺さるかを確認するような攻めを見せていた。


 ローレライも白い煙をヒレから吹き出して自分の身体を隠すが、刹那に姿勢を低くしながら大きく弦を引いた一射が剥ぎ取るように煙を吹き飛ばし、続けざまに放たれた矢がローレライの身体を掠める。


(煙、か)


(さすがはイェーガー、もう気づいたっぽいね。ローレライ、気をつけて)


 ローレライが煙を吹き出しながら潜行すると、イェーガーが弓で円を描いて風を吹かせ煙を周囲から払い退ける。

 刹那に背後からローレライが鎌首をもたげるもイェーガーの周囲に煙がない事から口を開けて光で照らせず、その瞬間にクロスとエルクリッドがカードを切った。


「ツール使用、魔獣縛りの縄!」


「ツール使用、縄抜け油!」


 鋭い有刺鉄線がローレライの身体に絡みついて締め上げようとするが、刹那にぬるりと灰色の液体が鉄線を滑らせて地に落とす。

 拘束効果のあるツールに対するツールカード、目には目をというやり方にはクロスもふっと笑いながらも次のカードを抜き、目があったエルクリッドも次の一手を繰り出して反撃に出る。


霊術スペル発動エルトゥ・カース!」


「エルフのカードか……! スペルブレイク、エアーフォース!」


 ドス黒い煙がイェーガーとその周りを飲み込み、同時に黄色の光を帯びて効果を相殺させる策をクロスが切り出したのにエルクリッドは軽く歯を食い縛りつつ、ローレライに煙をさらに噴出させて舞台を泳がせた。


 攻撃においても防御においても煙の存在が重要となるローレライは、そのからくりが分かれば戦闘経験の少なさが露呈し追い込まれる。それはエルクリッドもよくわかっており、だからこそ上手く指示を伝えローレライが慌てないように努める。


(うん、それでいい。動き回りながら煙を出してればあなたを簡単に捉えるのはできない……そして捉えた時が勝負だよ)


 長く太い身体ながらもローレライは素早く機敏に動き回り、イェーガーも狙いはつけども放つ間際には視界から消える為に攻められずにいた。

 当然、手をこまねいているイェーガーではなく、徐々にローレライの動きを見切り矢筒から十数本の矢をまとめてとって一気に引き、扇状に放たれた矢が低空を貫き白煙を晴らしてローレライの姿を晒し出す。


 その瞬間、尻尾を前に叩きつけるようにローレライが出してヒレから煙を出して白煙で包んで視界を塞ぎ、イェーガーも意図を察してか後ろに下がって弓を振るって煙を払い、それから弓を引いてローレライを射抜く。


 だが煙を貫き晴らした所にローレライの姿はなく、側面からぬうっと頭を上げて迫りそのままイェーガーを身体で絞めつけ捕らえた。


「イェーガー!」


「案ずるな、手は、ある」


 クロスが名を呼んだのに冷静に答えたイェーガーが袖口から短剣を出して手に持ち、それをローレライの身体に刺して一気に切り裂き黒い血を噴き出させる。

 煙を浴びてない箇所を逃さずに転じた反撃にローレライも苦悶するように身動ぎして拘束を緩めてしまい、すぐにイェーガーが脱して弓を引き狙いを定めた。


 刹那に一射が放たれると同時に、ローレライの全身から赤い光が放たれ舞台を切り裂き、円陣サークルに触れて激しい音を轟かせエルクリッドとクロスも巻き込みかける程の無差別攻撃がされる。

 矢がローレライの脳天に突き刺さると同時に円陣サークルの結界に反射された光がイェーガーを前後から捉え貫き、だが両者共にそこで倒れず相手に向けて最後の一射を放ってそれぞれを捉えた。


 ローレライは半透明の頭部が半分抉り取られる程の鋭く激しい一射を受け、イェーガーは両手足を焼き切られだるまの如き状態となったところで倒れ伏すのだった。



NEXT……

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