最後の将ーCircleー
黄昏の舞台にて
どれだけの時間を過ごしたのだろう。
果てなき時の流れ、その中で繰り返される営みを見続ける事は何を意味するのか。
それは快楽なのか。
それは憂鬱なのか。
希望、絶望、数多を見てきたものは何を思い世界を創ったのか、そして何故、過干渉しないのか。
その答えを知るには神と相対するしかない。かつて、神と相対し言葉を交わした者を退けて。
ーー
開かれた門の先の階段を下りて進み、自然と灯る燭台が照らす先の見えぬ程の長い回廊をエルクリッド達は進む。
静寂の中に響くのは自分達の足音と息遣い、服ずれの音だけ、それ以外のものはなく壁に挟まれた細い道が続くだけ。
先頭を行くエルクリッドは仲間達より少し早めながら進み、そのすぐ後ろをノヴァ、シェダ、リオと続き殿をタラゼドが務める。
狭い道である事から前後からの挟撃や道そのものに仕掛けがあれば逃げるのは難しい。だがそうしたものはないと思える程に空気が澄み切り、果てなき道と感じても疲れもなく、言葉を交わす事もなく、淡々と前へと進む。
沈黙がただ続くとやがて遠くに光が見え、目的地が近い事を一同に示す。
そこに何があるかはわからない、最果ての場所と言われる所へ辿り着いた者はいれどもその詳細は何一つない。
確かなのはそこに辿り着いた者は例外なく神に認められた者、リスナーにとって最大の栄誉たるリデルの名を持つに至る、それだけだ。
(リデル、か……あたしは、まだそんな器じゃないけど……)
星彩の儀を通しここまで十二星召の内十一人と戦い、仇敵バエルとの戦いも制した。だがそれだけでリデルの名を持てるとはエルクリッド自身はよく理解している、その名はただ強いだけで辿り着けないものというのは実際その名を持つデミトリアや、辿り着けずとも最強の名を持つバエルとの戦いを通してわかっているから。
回廊の先の光がより鮮明に見え、上り階段が一行を迎えるかのように静かにそこにあった。特に前で止まることもなくエルクリッドはそのまま進み、ノヴァ達も続いて一瞬の眩しさの後に広がるのは真白の石造りの舞台であった。
それがリスナー同士が腕を競う為のものであり、
「久しぶりだなエルク、だいぶ強くなったみたい……だな」
足下から顔へ目線を向けながらクロスはエルクリッドの成長を感じ取り、静かに下がって位置につく。
エルクリッドも深呼吸を一度してから両頬を叩いて気を引き締め、鞄をノヴァの前に置いてから舞台の上へと跳び乗って臨戦態勢へ。
十二星召、天竜将、リデル、かつて火の夢の事件を終わりに導いたリスナー、そして、師である紛うことなき実力者を前にエルクリッドの心は落ち着いていた。これまで築いてきたものが背中を支えてくれている、仲間とアセスがいる、そんな自分を前に一切油断した様子もなく臨戦態勢の師に対し、一人のリスナーとして挑めるのだから。
「師匠、一対一での戦い、でいいんですよね」
「
確認をするエルクリッドへ答えながらクロスがカードを引き抜き裏側を向けて突き出し、エルクリッドもそれと同じ事をし両者の戦いは静かに始まった。
舞台に画かれている魔法陣が光を帯びて結界となり
「出番だよ、ダイン!」
「まだ見ぬ可能性秘めた力を見せてみろ、イクス!」
聖なる円環を背負いしチャーチグリムのダインをエルクリッドは先鋒として召喚し、クロスはリンドヴルムのイクスを召喚する。
リンドヴルムは陸棲のドラゴンで獰猛というのはエルクリッドも知る所であり、召喚されて早々にダインを捉えたイクスが大気が震える程の大咆哮を上げて駆け出し迫った。
「相変わらず好戦的だね! スペル発動アースウォール!」
舞台より隆起する岩の壁がイクスの行く手を阻む形で現れ、だが構わずイクスは壁へ突撃し壁に亀裂を走らせる。だがその一撃で破れるような事はなく、すぐに爪で引き裂き、尻尾で殴打し、攻撃による突破へと切り替えた。
クロスのアセスの事はエルクリッドもよく知っている。その中でも最も好戦的、攻撃的であるのがイクスでありクロスも手を焼くというのも。
無論相応の攻撃力、戦闘力を持っているのも承知済み。それを確かめる為のアースウォールでの防御ではあるが、早々に突破されるのを察してエルクリッドは次のカードを抜く。
「ダイン、いつも通り行こう」
「ばうっ」
落ち着いた声色のエルクリッドにダインも声量を抑えて答え足に力を入れる。アースウォールはもうじき破られる、そこでクロスもカードを切って仕掛けてくるだろう。
黄昏の中で岩壁をイクスが破壊し突き破った刹那に、二人のリスナーは同時にカードを切った。
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