希ーGatekeeperー

真白の守護者

 選ばれし者に立ちはだかる者がいる。


 名声を求める者、純粋に力比べを望む者、様々なものがそこに至るまでに存在している。


 その最後に彼はいる。


 そこに至る者の力を測る為に。


 そこに至る者の心を見る為に。


 そこに至る者の技を知る為に。



ーー


 風の国ナームの南部にその門は存在している。その門がある不自然なまでに剃り立つ崖は上空を進もうとしても越える事はできない摩訶不思議の領域となっており、崖の先に行くには門を通る以外はない。

 だがその門は五つのカードを収めねば重く閉ざされたまま、そしてそこに必要となるのはエタリラの最上位に座す神獣達である。


 今そこにエルクリッド達が辿り着く。その先にある場所を目指し待ち構える者と戦う為に、そして、かの者がいる場所へ向かう為に。


「ここが、神のいる場所に通じる門……」


「正確にはそこに至る為の門、ですね。エタリラ中央にある小島、そこから創造神クレスティアのいる場所に通じる舞台があります」


 厳かながらも清らかな空気が漂う門を見上げるエルクリッドにタラゼドが詳細を伝え、次いでノヴァが門の窪みに気づきイリアのカードを抜く。

 同じようにシェダ、リオもオハムとアヤミのカードをカード入れより抜き、エルクリッドもウラナとエトラのカードを手に取る。


 取り出された五枚の神獣のカードが微かに光を帯び、やがてひとりでに浮いて門の窪みに収まると彫り込みに光が走り五体の神獣の姿が浮かび上がった。


 そのまま音を立てて門が開く、かに思われたが門は光を明滅させながらも閉じたまま。神獣のカードも嵌め込まれたままであり、他に何か必要とは感じたがそれが何かまではエルクリッド達にはわからなかった。


「神獣は全部揃ってるのに、どうして開かないんすか? デミトリア様の持ってるやつも必要とか?」


「いえ、あの方のアセスたるリベリオンは第六神獣と呼ばれるだけでエタリラの神獣ではないはずです。タラゼド殿は何かご存知ですか?」


 シェダの問いにリオが返しつつ知識人たるタラゼドへ答えを求めると、彼は宇城へ振り返りエルクリッド達も近づく足音とその気配を察し同じ方へ目を向ける。


「その門は五枚の神獣で開きます。ただし、神を護る騎士にして門番たる者がエタリラに存在する場合はその者を倒さねばなりません」


 穏やかなその声には聞き覚えがあり、足を止めた彼が微笑むと一歩前に出たエルクリッドが前に出て名を呼ぶ。


「ユピア・トゥルー……! あんたは……」


「改めて自己紹介させていただきます。ユピア・トゥルー、それは仮初の名前……真の名はノゾミ、かつてクレスティア様が人であった時の最強の守り手と同じ名を与えられし、その門を守る者です」


 ユピア改めてノゾミは完全に記憶を取り戻している様子であり、何故記憶がなかったのかについては訊ねられる前にノゾミ自身が静かに語り出す。


「自分の記憶は戦いを繰り返す中で取り戻していきました。何故記憶が封じられていたのか、それはクレスティア様に代わり忖度なくエタリラを担い守らんとする者達、そこに生きる者達を自然に見る為の目としての役割を与えられての事……その中で、エルクリッド・アリスター、火の夢の欠片を宿すあなたの処遇について見定める為に」


 火の夢の名を出されエルクリッドが咄嗟に臨戦態勢となりノゾミもカード入れへ手をかけた。

 彼が記憶を失って戦い続けた事はエタリラとそこに生きる者達を観察する為のもの、そしてエルクリッドの監査も兼ねてたとなれば彼が以前語っていた誰に言われた使命というのもクレスティアからのものとわかる。


 今、彼は本来の使命を果たす為にここにいる。その中でエルクリッドは彼が火の夢について、自分の事に触れたのに微かに胸が締めつけられた。


(火の夢……どうして今更……) 


 終わったと思った事が蒸し返された心地だった。何よりも、創造神として存在しながらも苦難に手を貸す事なく傍観する存在に対しての怒りとも悲しみとも取れる思いが込み上げ、無意識にエルクリッドの瞳孔が細くなり手を強く握り締める。


 と、ここでシェダが前に出てゆっくり進むのに気づいてそちらにエルクリッドが目を向け、カードを抜く彼が臨戦態勢となったのを悟りノゾミもまた戦うつもりですかと問う。


「エルクリッドはこの先にいる人と戦わなきゃならねぇ、門を通る為にあんたを倒すってんなら別に俺が相手でも構わないだろ」


「シェダ……」


「師匠とやるんなら万全の状態でやってもらいたいってのもあるから気にすんな。それに、まだこいつとは直接やった事がねぇから戦う意味もある」


 シェダなりの気遣いにエルクリッドは俯き気味になりながらもありがとと小さく伝えると、彼女の肩に手を置いてからリオも前に出てカードを抜く。


「リオさん!?」


「個人的に、守り手たる方と力比べをしてみたくなった、それだけです。貴女との旅を通し素直にそう思えるようになれたことへの感謝も、もちろんありますが」


 リオも戦いの意思を示した事にはエルクリッドは驚くばかりだが、自分という存在との出会いを経て得たものが僅かに垣間見え目が潤む。

 目の雫を指で払ってからこの場は二人に任せると決めてエルクリッドは一歩下がり、ノヴァとタラゼドも引くとシェダとリオが前に出てノゾミもまたいいでしょうと答えカードを抜いた。


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