存在しないモノ~ ボーイミーツガール/ マトリョーシカの回~

ぶう

存在しない者~ボーイミーツガール/ マトリョーシカの回~

『存在しない者』


「存在しない者?」

「ええ、大した話ではないので、与太話の一つと思って聞いてください」

20代後半の女性、イザヤと名乗る存在管理部の人間に呼び出されたのは夜深まってのことだった。

急ですよね。

急です。物事ってのは唐突にやってくるものです

唐突にか。

存在しない者って知ってますか?

この世界がまだ、旧世代のシステムでまわっていたころの時代ですよ。

AIの発展とともに、人間の必要性について創作領域で人の小説や漫画といったものに

そもそもAIと人との区別もできないのにそんな議論したところでどうしようもないでしょうが、存在意義そのものがゆらいだ。そういう混沌とした時代にささやかれるようになった噂みたいなものです。

存在しない者。そいつを見たものは自分の存在を消されてしまう。その代わりにこの世で消したいものを一つ消してくれるそうです。

でもそれって、自分の存在が消されちまう。ようは、死んでしまうも同義だろ?

それなのにその代償にこの世で消したいもの一つ消してくれるって筋が通らないような。

そうですね。自分が消されてその代償に消したいものを一つ、この世から消してくれる。

そんなハイリスクハイリターン。得がありそうで損でしかない。

一見、理にかなってないようにみえますが案外、それを受け入れるモノもいるんですよ。

自分の身を消してまで、世の中から消したいものがあるニンゲンなんて腐るほどいそうだが、それ、地球っていったら、終わりだろ?この世っていったら?

さすがにこの世界そのものは消せるほどのものではないそうです。存在しない者はあくまでその世の仕組みによってカテゴライズされてなりたっているという矛盾だらけの存在いえ存在しない者らしいですから。

いまいち行ってる意味がわからないな

私も全容は理解できてないので。とまあ、人間などの生命、モノ単位に限るとのことなので。

何でもってわけではないってことか。

ええ。そうだとこの存在しない者の役割はなくなりますからね。

そして、それがOKだと世界そのものはすでになくなってますし、こうしてあなたと会話をしているのにも矛盾は発生します。まあ、説明を後付けさせればなんどでもなるかもですが、考えられる限りだとそもそもこの世界は存在しないってなりかねないわけですし。

イザヤさん、一つききたいんだがその存在しない者の話をしたのってなぜだい?

彼女は不気味に笑いながら言った。

それは、あなたが存在しない者だからですよ

私は息をのんだ。

どういうことです?

そもそもですが、存在管理部って役所がどういうことをしている場所かあなたはご理解されてますか?

わからない。

私は言った。

あなたのお名前は?

私だ。

それは名前ではないです。主語ですよ。まあ、そんな苗字の人もいるでしょうが。

では質問をかえます。いまは何時何分であなたはどこにいるのですか?

今は夜です。

時間についてきいてます。

ん?

私は誰でしょうか?

イザヤさん。さっき、自己紹介してたじゃないですか。

ええ、あってます。イザヤです。ただそれだけです。

それと、質問なのですが、今あなたは何をみてますか?ここはどこでしょうか?

わからない。夜だっていうのはわかる。

私がみえてますか?

みえてますよ。

なんで、ここまでのやりとりは文字なのにみえてるというのでしょうか?

私は答えた。

文章に、みえてますよ。って書いてあるから文字で言ってる。

最後に質問です。これを書いてる人は誰ですか?

わからない。顔がみえないしわからんよ。あなたもそうでしょう?

私はイザヤという20代女であるということは私もあなたもわかっています。

では、アナタは?私という主語は抜きで、誰でしょうか?

わからない。

今、自分はみえてます?

みえてない。

そうだ。姿かたちはない。みえるのはうちこまれる文章だけだ。

つまり、あなたは?

存在しない者。

と名乗った。


* 


「存在しない者?」

メイは言った。

この話のオチってあるの?

ない

え~ないの~つまんない~

と俺の後ろを歩きつつ言った。太陽の光が上から差し込む。

時刻は12時を回ったあたりだろう。

近所を散歩しながら、メイと俺は二人で考えた物語を口で話していた。

案の定、俺はよく分からない哲学なのか純文学なのかわからん話をしたので

メイは話すたびに「なにそれ?」とか「今の場面っている?」とか話している途中に口にうするものだからペースを乱された。が、なんやかんやで最後まで聞いてくれる分やさしい。

ネット投稿だと見てくれないどころか、投稿してもそれを知らないってのが当たり前になっている。

退屈っていう割に笑顔で上機嫌なのが不思議だ。

存在しない者がもし自分の前に存在しているのなら、今こうして、存在している自分自身存在しないんじゃないかって

存在論ね。うさぎは好きだねそれ。

メイはにんまり顔で言う。

存在しないっていう状態ではないけれど、私とうさぎの今の状態って存在してるか存在していないかどちらでもないって状態だから、まだ明確になっている分、まだましかもね。

寂しそうな横顔でメイは言う。

どちらでもないっていうあいまいな状態も大切だともいうぞ。

それは考え方の問題でしょ。人間はなにかとはっきりしないと我慢ならない。それが変化の激しい状況ではあまり好ましいものとはいえないからっていう

確かにそうだな。どちらにでも状況に応じてなれるってのも利点かもって話さ

もし、おれがここに存在しないとするなら、メイも存在しないってことになるな

そうかもね。でも、わたしがこうしてうさぎと話しているから存在しているってことじゃない。そもそも、存在していないってなんで最初にそう断定していえるの?存在してるっていう場合もそうだけど。

考えれば考えるほどどうどうめぐりになりそう。

どちらでもありどちらでもない。シュレーディンガーの猫。という例えとしてどこにでもころがってそうな安直な結論になりそうでそれもそれでいやだなと思った。

近所を散歩して俺の家の前にちょうどたどり着く。

ある意味、この世で消したいモノを消す存在、存在しない者って私の事かもね!

その言葉にオレは納得し、笑みを浮かべて言う。

確かにな。

なら!

バシュンッ!!

メイは目を見開き、両手をパンッとたたいた。

俺の家の周囲一体の景色が綺麗に吹っ飛んだ。

白紙となった何もない場所に様変わりした。

こういうこと?存在がないって?

うん…まあーあってはいるよ。あってはいるけど

なんで、なら!っていったあとに景色ごと存在を吹っ飛ばすのか謎だ。

俺は若干顔をひきつらせつつメイに頼んだ。

元に戻して

なに?その押井ル○ンみたいな話。わけがわからないわ。

別の日、作家業を営む推理草にも同じような話をしたが帰ってきた第一声がそれだった。

その内容を否定したプロデューサーような発言をしないでくれない?

存在哲学ね~兎河くんがテーマにしているものだっけ?

小説で書くときの作品の共通テーマさ

哲学的ね。現実的に物事を解釈する人間には向かないわね

推理草?この話どう思う?

どうも思わないわよ。なんだかオチのないそもそも、何も考えずに書いたモノって感じ。

オチのないモノ。すなわち存在しないモノ!

うまくないわよ。

呆れた顔で彼女は言った。

そもそも、こうして兎河くんと私が話しているけど、その存在しないモノの話の通り、いまこうして話しているのも小説の文章の中のお話でしかなく、私たちの存在も作られたものだととらえる発想もできるわね。まあそれはそれで面白いけど。

それが小説だったとしたら、読み手もいるのか?

いなかったとしても作者はいるでしょうね。それがAIでも人間でも作者でもあり読者でもあるわね。AIはさすがにいいすぎかしら?

この話を書いてる作者の世界も物語の中でしかないともいえるじゃね?

そうね。フフッ、それは繰り返されてるのかも。

存在しないマトリョーシカか?

マトリョーシカのように確かに続いてるのかもね。面白いわね。一作それで書けそうな気がするわ。

とはいえ、それはあくまで、例えばの話。現実はこうして存在している。そんな中で自分の人生のストーリーをかく作者は自分自身でしかない。傑作にするのも、駄作にするのも、どちらでもないものにするのも今の人生をいきる私たち一人一人にゆだねられている。素敵なモノね。

決断するのは自分自身ってわけか。そして道を切り開くのも。

そういうこと。

すると、推理草は虚空をみつめ、不敵に笑う。

そして、最後にこうしめた。

フフッ、これを読んでるアナタは、どう思う?






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