第5話 部隊評価

「ようこそ。」クラリッサ先生の声が空間に響いた。

「これから行うのは“部隊査定(スカッド・アセスメント)”。ここで、今後ずっと一緒に組む仲間が決まります。――祓魔師としての、最初の任務だと思いなさい。」


タリアが不安げに手を挙げた。

「あ、あの……具体的には、何をすればいいんですか?」


「簡単よ。」クラリッサ先生は、どこからともなく扇を取り出してぱちんと開いた。

「それぞれ、自分の能力を“模擬敵”にぶつけてもらうわ。安心しなさい、死ぬことはないから。――たぶん。」ウィンクしながら、意地悪く笑う。

「大事なのは力だけじゃない。考え方、適応力、そしてストレスにどう耐えるか……私は全部見ているの。」


……またか。どうせ絆を深めるためだの何だの、そういう体裁を取った試験だろう。


「では――フジ・カネ、最初はあなたよ。」


フジは迷いもなく一歩前へ。鋼の刃が手に現れ、その周囲に炎のようなオーラがまとわりつく。金属の羽ばたきと共に、彼は光の人型の幻影へと突進した。


「七舞――一歩目。」低く囁き、斬撃が幻影を切り裂く。


だが次の瞬間、羽根から放たれた無数の羽刃が周囲に飛び散り、余計なものまで切り裂いた。フジの身体が揺らぐ。


「ちっ……」


「悪くないわ。」クラリッサ先生は微笑んだ。

「でも覚えておきなさい。強さ以上に“制御”も重要だってことを。」


次はユウキ。銀色の霊剣を顕現させ、挑発的に笑った。

「よく見てろよ。」


だが斬りかかる途中で刃が消え、慌てて後退。


「まだオーラ投射が安定しないの?」スキが腕を組んで呟く。


「黙れ。」ユウキが睨む。


スキの番。静かに立ち、慎重に斬撃を放つ。幻影は真っ二つにされたが、その一撃で息が上がっていた。


「片方は無鉄砲、もう片方は慎重すぎる……面白い組み合わせね。」クラリッサ先生はくすりと笑う。


次はミキオ。言葉もなく地面を踏みしめる。ドン! と大音が響き、熱をまとった身体が一瞬で幻影に迫る。炎を拳に纏わせ、一撃。轟炎が広がり、隣のジャクソンを巻き込みそうになる。


「……ごめん。」と炎文字で謝罪。


続いてミカサ。薄青の透明な剣を握りしめ、背にオーラの翼を生やす。霊眼が淡く光り、血管が浮かぶ。

「……見える。弱点が……」


だが剣は衝突の瞬間に砕け、彼女は体勢を崩しながらも必死に持ち直す。


「悪くない直感。でも実行力はまだまだね。」クラリッサ先生が軽く拍手した。


ジャクソンの番。自らの腕から刃を引き抜き、血を槍へと変えて射出する。だが膝が揺らぐ。


「見栄えにこだわりすぎ。」クラリッサ先生が厳しく言った。

「代償を制御しなさい。」


次はタリア。手に炎を灯し、波のように放つ。だが炎は制御できず暴走し、幻影の外にまで広がって霧散した。


「はぁ……“補助輪付きの不死鳥”ってところね。」クラリッサ先生がため息をつく。


最後にサクラ。全身から狐のようなオーラを溢れさせ、尻尾が揺れる。スピードは三倍、幻影の周囲に分身をばらまく。拳を叩き込む――だが幻影をすり抜け、分身同士が激突した。


「ええっ!? また失敗!?」


クラス全員が笑った。


そして、俺の番が来た。


はぁ……仕方ない。影が足元に集い、忠犬のように身をうねらせる。幻影が襲いかかるが、影の壁がそれを受け止め、拳を叩き込む。無駄なく、淀みなく、幻影を吹き飛ばす。


教室が静まり返った。


「……面白い。」クラリッサ先生の目が細まる。


俺は手を払って後ろに下がった。


「今日はここまでにしましょう。」パンと手を叩き、訓練場は普通の教室に戻る。

「今の試験で、自分の強みと弱みは理解できたはず。明日、部隊の編成を発表します。それまでよく考えること。部隊は、一人で輝く場ではなく……互いの弱点を補うものなのだから。」


教室はざわめきに包まれる。俺は机に寄りかかり、すでに疲れを感じていた。


――また試験。結局は檻の中。


……まあ、どうでもいい。


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「無敵のヒラくん」。……はい、これが新しいあだ名らしい。誰が頼んだんだよ。もう一人でもそう呼んだら、マジでブチ切れるかもしれない。

……まあ、これがクラスFってやつだ。うるさいし、ウザいし、予測不能。なのに、気づけばオレはその中にいる。クラリッサの言葉が正しかったのかもしれない。部隊ってのは、お互いの弱点を補うためにある……ってな。まあ、口に出して認める気はないけど。


とにかく、オレがあだ名やバカどもにいじられてるのを楽しめたってんなら、たぶんあんたはクラリッサのお気に入りになるタイプだ。コメントするなり、登録するなり、好きにしろよ。それが「応援」らしい。

……オレ的には、サクラを助長してるだけだと思うけどな。

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