第4話 奴隷としての生活:家庭教師編 農業と暦について

 さて、麦などの収穫が終われば農閑期だ。


 古代エジプトでは二毛作などをしなくても十分な量の穀物を得ることができたので、ここからは農作業はない。


 必死になって農作業をしている地域から見れば実に楽なのだ。


 で、ナイルの増水期ではないので建築作業なども今はストップしてる。


 石を運ぶのには川の水位が高くなったときに船を使って運ぶのが基本だからな。


 俺が今何をしているかというと王家の娘さんの家庭教師だ。


 高校レベルの知識でも古代エジプトでは十分博識なレベルだからなんだ。


 因みに古代エジプトにも学校は一応あるが女性は学校に行くことは許されてない。


 なので王家や貴族などの女子は家庭教師を雇って色々学ばせるわけだ。


「さて一年は360日に5日足して365日からなります。

 一月は30日でそれが12の月にわけられています」


「はい、先生」


「そして季節は4つの月ごとに変わり3つにわけられます。

 ナイル川の水が増えて洪水が起こる時期のアヘト。

 水が引き土が乾いて畑をつくり麦が成長する季節のペレト。

 ナイル川の水かさが減って暑くなり麦を収穫する季節のシェムウです」


「はい、先生」


「しかし、正確には一年は365.25日で

 本来は4年に一度一日をたした方がいいのですが、暦は太陽神アメン・ラーと知恵の神トートが決めたものなので人間が勝手に変えることができません。

 なので実際には、シリウスの星の出と日の出が一致するときを正月として、ナイルの増水などを予め予測するようにしています。

 それに加えて川の水位を監視するナイルメーターをみて、実際に水位がどうなってるのか確認を行っています」


「はい、先生」


 因みにエジプトに暦が導入されたのは、おおよそ紀元前3000年くらい。


 現在の正月は3月目頭くらいだから結構ずれてるんだよな。


 開始されたときの正月は7月の後半くらいでその頃にナイルの水位が上がり始めていたらしい。


 暦そのものはメソポタミアからの移住してきた民によって、天文学とともに伝わったらしい。


「なので、神殿の祭事は暦に定められた月日で行いますが、農業は星の動きで作業開始を決めているのです。

 それはソプデトが初めて空に上る頃。

 ソプデトが太陽とともに東天から昇ってくるその日が農業での年初となるのです」


「はい、先生」


 ちなみのソプデトというのはシリウスの女神だ。


 ナイル川の洪水の時期を知らせるシリウスであるソプデトは、いつしか肥沃の神ソプデトは豊穣神イシスの化身として崇拝されている。


「そしてシリウスの出てくる方向に建てられた女神イシスの神殿で、太陽が昇る直前に東の地平線上にシリウス星が現れるヒライアカル・ライジングの朝に、太陽神アメンラーとシリウス星ソデプトの光が両方、地平線上に上がって神殿内に差し込んだことをイシスの神官は見てそれを王に進言するのです。

 そして王は水に浸ってしまう地域から人々を退避させ水位が上がれば石切りを開始して神殿の改修や新しい建物の建築を開始します」


「なるほど、暦というのは大事なのですね」


「ええ、ネフゥルウラー王女、農業暦は国家を運営するためにとても大事ですからぜひ覚えてください

 そのためにも文字の読み書きはとても大切ですよ」


「はい、分かりました」


 因みにこの時代の書き留めるための材料は、パピルス紙が有名だが実際には木板や石版・割れたツボなどの陶器の破片などを使うことが多かったんだが彼女は王族らしくパピルスに燃やしたすすを水に溶いて膠もしくはアラビアゴムを加えた粘性の強い黒いインクを灯芯草と呼ばれる、イグサ科の植物の芯をペンとして使って書いている。


 シャーペンや鉛筆や消しゴムがないから間違えたら大変なんだ。


 そういう点では現代は恵まれてたかもな。

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