発売日記念書き下ろしSS

記念日なので!


「何をしているんだ?」


 厨房で料理長と夕食の準備をしていましたら、少し早めに帰ってきたらしいレオン様が入り口からひょっこりと顔を出しました。


「今日は記念日なので、少し遊んでます」

「記念日?」


 レオン様が首を傾げながら、結婚記念日はやったし、お互いの誕生日もまだだし、何かあっただろうか? と悩まれています。

 覚えていないかもしれませんが、私にとっては人生で何番目かの大きな出来事だったのです。


「レオン様と初めて赤竜討伐した日ですよ」


「あぁ! もう一年経ったのか!」

「はいっ! なので、ごちそうを」


「遊んでいると言わなかったか?」

「うふふっ。出来上がりを楽しみにしていてください」


 レオン様は少し不服そうな表情なものの、コクリと頷いてくださいました。

 先に湯浴みをされるそうなので、その間に急いで準備をしましょう。


 先ずは、大切に取っておいた、ドラゴン熟成肉のローストビーフならぬローストドラゴン。こちらは昨日の内に仕込み終えていましたので、あとは薄く薄くスライスしていくだけです。


 わざと三角にして作ったローストドラゴン。外側は焦げ茶色ですが、じっくりと火を通したおかげで中は綺麗なバラ色。断面は瑞々しく水分がしっかりと残っているのも高ポイントです。


「完璧な仕上がりね!」

「ええ」


 ローストビーフやローストドラゴンの中が赤いのは、生なのではなく、じっくりと弱火で調理したおかげで赤色のタンパク質のみが固まり、血液はそのまま残るので赤みが残るのです。

 ただ、酸素に触れると徐々に薄茶色に変色してしまいますので、スライスしたら手早く作業しなければなりません。

 他の料理はすべて仕上げ済みなので、あとはローストドラゴンの飾り付けのみです。


 まな板の上にスライスしたローストドラゴンの端と端を三センチほど重ねつつ横に並べて、一直線の長いロースドラゴン状にします。

 そして、その並べたものを端からくるくるとロールしていくのですが、二十枚重ねたいのである程度巻いたらまな板の端までずらして、またローストドラゴンを重ねて横並べにしていきます。


「……思ったより大きくなったわね」

「いつも食べる量ではあるんですがね」


 くるくる巻き終えたローストドラゴンを大きなお皿に縦置きで乗せて重なりを外に外にと開いてあげれば、綺麗なバラ型のローストドラゴンになります。

 葉物やソースでその周りを彩れば完成です。

 他の料理の最終確認も終えたので、あとは料理長とキッチンメイドたちにお任せします。


「あとはよろしくね」

「承知しました」


◇◇◇


 ダイニングに向かうと、レオン様が手紙を読みつつコーヒーを飲まれていました。


「お待たせしました。どなたからのお手紙ですか?」

「あぁ、王都の貴族たちだよ。夜会に来ないかとね」


 王都で魔獣のお肉の美味しさを暴露して以来、こういったお誘いも増えていますが、防衛の要なのでいつもお断りのお手紙を出すことにはなります。


「もう出来たのかい?」

「はい」


 レオン様が食べたいとのことなので、直ぐに配膳を頼みました。

 いつもよりちょっと豪華な前菜やスープ。そして、メイン料理の登場です。


「ん? バラ……? あ、ローストドラゴンか」

「ええ。今日はドラゴン記念日ですので、バラ型のローストドラゴンです」

「美しいな」


 そうでしょう、そうでしょう。今回のローストドラゴンは、火加減も完璧に出来ていました。


「美しいが、食べてこそなんだよな? いただこう」


 流石レオン様です。そう、美しさも美味しさのひとつなのです。


 ただスライスして出すことも可能ですが、ときには芸術的に飾り付けて目で楽しんで、口で味わって、最高の食事にしたいのです。


「ん、美味い!」

「んーっ! 口の中で蕩けまふ……」

「なんだかいつもより美味い気がするな」

「うふふっ。ちょっとだけ、いつもより上手に出来たんですよ」


 そう報告すると、レオン様は自分のことのように喜んでくださいます。とても優しい旦那様です。


 食後には美味しいデザートも食べました。


◇◇◇


 お腹いっぱい、幸せいっぱい、胸いっぱいでベッドに入りました。


「次の記念日は何をしましょうか!?」

「ハハッ! もう次のか。そうだな、一緒に狩りに出掛けるのはどうだ?」


「記念日の狩りデート!? 約束ですよ? 聞きましたからねっ!」

「ん、約束だ」


 今日はなんだかいつもより贅沢をしてしまいましたが、記念日なのでありなのです。


 そして、次の記念日の約束も。

 とっても楽しみです!

                            ―― fin ――


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肉食令嬢は、肉のために結婚することにした。 笛路/ビーズログ文庫 @bslog

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