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 朝起きると、じょからレオン様はすでに騎士団に向かったと伝えられました。そして、朝食は部屋に用意しているので食べたら身体からだを休めてほしいという伝言も。そう言われたせいで昨晩の情事をちょっと思い出してしまい、頭をって脳内から追い出しました。


 朝食を終えるといそいそとちゅうぼうへ移動します。休めと言われても、わりと元気なので気にせず活動開始です。


「料理長、ちょっと相談があるのだけれど、今だいじょうかしら?」


 いつも食事をありがとうと感謝を伝えつつ、先日気付いた『ソース問題』を伝えると、食に興味のうすかったレオン様が最近は楽しまれていることに、料理長も気付いていたようです。


「今日は、ソースを食べるための食事にしてみたいのですが」

「ソースを食べるための、ですか?」


 料理長が興味を示してくれたので、説明を続けます。


 ステーキなどは提供される時点で、既にソースがけられているのが基本です。今回はそこを変えてみようと思っているのです。

 何も掛けられていないステーキ肉をお皿に盛り、ディップ用の小さなココット皿に様々なソースを入れて出す。

 これだと、色々とためせるし、気に入れば同じ味を何度でも食べられます。かなり自由度の高い食事になると思うのです。


「なるほど……ココット皿にですな」

「ええ。レオン様にもっと食事を楽しんでほしいんです」


 食事は生きるために必要で、栄養さえ取っていれば大丈夫なのでしょうが『美味おいしい』や『楽しい』も大切なのです。食事は身体も心もすこやかにできるのですから。


「おかえりなさいませ」

「ん、ただいま」


 夕方お仕事からもどられたレオン様をげんかんでおむかえしましたら、少しだけ申し訳なさそうな顔をされました。どうされたのでしょうか?


 おえに向かわれるので、ついて歩きながらおうかがいしてみると、予想外なことで気にまれていました。


「昨晩はすまなかったな」

「へ? 何がでしょうか?」

つぶしてしまったことだ」

「ほわっ……ちょっ………………じっ、侍女に聞こえますっ!」


 私たちの後ろには侍女がついていますし、なんならしつも歩いていますけども! つうに人に聞こえる声で言われると流石さすがずかしいのですが!?


「ん? いまさらじゃないか? 片付けやベッドメイクなど使用人たちがするだろう」

「そっ、それはそうなのですが……」

「それから、朝の狩りに行かせてやれなかった。本当にすまない」


 何やら深刻な声で謝られてしまいました。それは、行けるなら行きたかったですけど。日課と言えど、毎日行くというわけではないのですよね。ちがう狩り場にも行ってみたかったので、レオン様にご相談しようかなと思っていたところではありましたが……。


「朝方、ずっとうなされていてな」

「へ?」

「クラウディア」

「はい?」


 レオン様がピタリと足を止めたので、あわてて止まり向かい合いました。


「明日はともに狩りに行かないか?」

「っ! はい! ぜひっ!」


 あまりにもうれしいおさそいに、前のめりになって返事をしてしまいました。


 レオン様のお着替えが済んで一緒に食堂へ向かっていたのですが、狩りに誘っていただいたことが嬉しすぎて鼻歌がていたようです。レオン様がフッと笑い「クラウディアが歌うのを初めていた」とおっしゃったことで、恥ずかしさのあまり、今度はうつむいて食堂へと向かうことになってしまいました。


 レオン様がかいそうにされているのがちょっぴりくやしいです。食堂に近付くにつれ、焼いた牛肉のいい香りがせんめいになってきます。既にメイン料理が待ち遠しいです。


 レオン様と明日の狩りについて相談しながら食事を進めていきました。

 先日の狩り場より少し奥へ行くと、生息するものがガラリと変わるのは調査済みです。あとはレオン様が『行ってもいい』と言ってくだされば……。


 期待をめた視線を送っていましたら、苦笑いされてしまいました。


「クラウディア、普通の野生動物とじゅうは少し違うから、きんきゅう時は絶対に私の後方に下がると約束してくれ」

「はい! 命に代えても、その命令に従いますわ!」

「いや、まあ、そうなんだが……全力感がすごいな」


 レオン様が困ったようにクスクスと笑われていたのですが、何がしかったのでしょうか?


「お待たせいたしました」


 あ、お肉が届きました。この話はいったん止めて、お肉に集中しましょう!


「ん? ステーキか……何も掛かっていないが?」

「はい、塩しょうで下味のみ付けていただいております」


 焼き加減はミディアムレアに指定させていただきました。ちなみにレオン様の好みは、料理長にも分からないそうです。なので、私好みに染めようと思います。そもそも、今回はソースの好みのはばを増やし、食事を楽しむがコンセプトですからね。


 きゅうが細長い銀のおぼんに、小さなココット皿を乗せて私たちの前にそれぞれ置きました。


「これは?」

「ステーキソースですわ」


 レオン様がキョトーンとしていますね。そんなお顔が可愛かわいくて、クスリと笑いながら説明すると、ワクワクとしたお顔に変化していかれました。これは、食べる前からいい反応ですね。


「ステーキを一口大に切りましたら、ココット皿のソースにけ、様々な味を楽しんでいただきたいと思っています」


「なるほど! 面白そうだ」


 レオン様がステーキを切り、ずは一番ひだりはしのトマトガーリックソースに浸けました。


「んむ……うん。いが、肉のうまがガーリックで少し遠のくのだな」

「そうですねぇ。においが強めのお肉とかであれば、丁度いいのかもしれませんね」


 その隣は、いつものイチジクソース。うさぎ肉に掛けるのは好きだったようですが、牛肉にはいまいちだったようです。


 その次は、オレンジソース。思っていたよりも美味しいとのことでした。


 その次は、チョコレートソース。名前を聞くと甘いのかと思いがちですが、バルサミコや赤ワインと混ぜることによりマリアージュが起こり、なんとも言えない深みのあるソースになります。


「んっ!? 美味い! 鼻からけるカカオの匂いはチョコレートと言われればそうなんだが、ちゃんと肉に合うソースになっているし、肉の旨味をそこなわずによくからむ…………これは、美味い」


 急にじょうぜつになられ、もう一度チョコレートソースに浸けて味わっていらっしゃいました。


 次は、フルーツソースです。りんごやオレンジ、玉ねぎを使い、モルトビネガーでしっかりと味付けされています。


「ん? ほぉ。普通に美味いな。なんというか、普通だ」


 そして最後は赤ワインソースです。肉を焼いたあとのにくじゅうたっぷりのフライパンに赤ワインとトマトピューレ、ビネガーを入れ、黒胡椒でピリッとめています。


「ふむ……これも普通だな。ただ、さっきのものよりはこちらの方が好きだな」

「うふふ。多様なお味を楽しんでいただけました? 念のためおかわり用のお肉もたのんでいましたが、持ってこさせます?」


「ん! 食べる!」


 レオン様がキラキラとしたがおうなずかれました。一番気に入ったのはチョコレートソースだったそうです。牛肉とのあいしょうはとてつもなくいいですからね。なっとくです。


どうやら今回の目的は達成できたようで、私も自然と笑顔になりました。


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