2-2
*****
えー、人生で初めてではないでしょうか? お昼と夜を
先程、何かの動物の鳴き声のようなものが聞こえて目が覚めましたら、まさかの真夜中だったのです。
「ん? 起きたか」
「っ! いえ、まだ眠っています!」
「んははは!
ゴギュルルルと、何かの動物の
ペコペコです。
「食べます」
「っ、ふふふ。だろうな」
レオン様がベッドから起き上がり厚手のガウンを羽織ると、夜番の使用人を呼び出すベルを鳴らしました。慌てて私もガウンを羽織りました。ちょっとしどけない格好でしたので……。
食事を
主寝室のテーブルに二人分のボロネーゼパスタが並びます。
「クラウディアが食べたいと言ったそうだな。君なら、この時間でも食べられるだろう?」
「はい! ありがとう存じます!」
レオン様は分かっていらっしゃいますね! 私、ホーンラビットのボロネーゼパスタ、本当に楽しみにしていたのですよ。
これがお父様ですと『クラウディアちゃん!? 夜中にそれは美容に悪くないかな!? そもそも、胃もたれ
嬉しさのあまり自然と
「んんんーっ! お肉の旨味がギュッと
ソースがイチジク
今後は色んな味に
明日、厨房に行った際に伝えて、今後の計画を練らなければなりませんね!
「ん、美味いな」
にこにこ笑顔でパスタを食べているレオン様。聞けば、レオン様も何も食べていなかったそうです。
私が寝ている間に食べていてくださってよかったのですよ? と言うと、レオン様が「んー。クラウディアと一緒に食べた方が美味い。そもそも、まぁ、なんだ……クラウディアが食べ損ねたのは私のせいだしな?」と、ちょっと申し訳なさそうに
――――あら? あららら?
なぜかまたもや胸の奥がギュッと締め付けられます。でもこれ、たぶん、レオン様に伝えたら、また
私、ちゃんと学びますので! コレは、秘密にしておいた方がいいヤーツ!
ちゃんと覚えました!
そんなこんなで、レオン様と激しめにイチャコラしてしまった三日後、料理長からリエーブル・ア・ラ・ロワイヤルが出来上がったと報告がありました。あの日から、ずっと煮込んでくださっていたのですよね。本当に
夕食に出してくださると聞きつけてから、お昼を食べたばかりなのにワクワクドキドキ、グルグルペコペコ。気もそぞろになってしまい、弓やナイフの手入れに集中できません。
「っ……ふぅ。
侍女に部屋に戻ることを伝えました。こういうときは本を読むに限ります。魔獣図鑑とは別にレオン様にお借りした分布報告を読むことにしましょう。
分布図を開き見ていると、先日の
「コカトリスって、美味しそうよね? 分類的には蛇なのかしら? 鶏なのかしら? そもそも食べられるのかしら?」
「……えっと、私にはあまり美味しそうには見えません」
お茶を差し出してきた侍女に話しかけると、苦虫を
「――――ということがありましたの」
「コカトリスか」
レオン様いわく、蛇の部分と鶏部分は別の脳を持っており、
鶏部分のみになると、野生の鶏とはそこまで大差がないそう。
魔牛においては、ただ大きい角があるだけの気性の
「メインのリエーブル・ア・ラ・ロワイヤルでございます」
色々な計画を脳内で立てていましたら、待ちに待ったメインが到着しました。
見た目は真っ黒なソースの海に
とにかく、黒い。
ただ、赤ワインとブランデーをたっぷりと使い、お肉を煮込んでいるだけあって、とてつもなく香り高いのです。
ゴキュリ。
私とレオン様の喉が同時に鳴りました。
「見た目に反して、いい匂いだな」
「っ、もう食べていいですか?」
「ふっ……ん、頂こうか」
「はい!」
美味しいものを食べると、人は『
ちなみに、レオン様は、ずっと目を
「……レオン様、とても……とてもとてもとても美味しいですわね」
「あぁ。複雑かつ力強い味……これは…………ハマるな」
「えぇ。もう少しだけ食べて、この複雑さを
「っ!
「「…………」」
ちらりと
それは、腹の奥底から
「「おかわりを!」」
リエーブル・ア・ラ・ロワイヤルを…………おかわりしました。二人とも。つい。
味を紐解くとかいう『言い訳』そっちのけで、二皿目もぺろりと食べてしまいました。自分で作ったものや、以前レストランで食べたものよりも、格段に美味しいんです。料理長の
「ふぅ。久しぶりに満腹になるほど食べた」
「あら? いつも満腹になっていなかったのですか?」
「ん。いつなんどき大型魔獣の出現があっても動けるようにな。満腹だと、身体の動きが
レオン様は、どこまでも
そういえば少し気になっていたことを聞いてみましょう。
そもそもレオン様って、辺境伯なのですよね。辺境伯とは、
「――――なのに、なぜ騎士を続けていらっしゃるのですか?」
騎士団長も務められ、討伐にも出て、新人の教育にまでもついていき……どれだけ仕事を掛け持ちされているのでしょうか?
「……………………仕事を制限し、ともに過ごす時間を増やしたいという話か?」
レオン様の目付きが
「いえ、全く。
そうお答えすると、レオン様の鋭かった
もしや、勘違いされている? レオン様に我が家のことを説明すれば、分かってもらえるでしょうか?
私はお父様が何の仕事をしているか知りません。
常に家にいて、外で仕事をしている
「なるほど……理解した。確かに伯爵は……まぁ、その……うん…………君の母上は幼い
「はい。そうですが?」
それとこれと何か関係があるのでしょうか?
「
――――ん?
要約すると、お父様のことは気にしてはいけない。ということですかね?
「そっとしておきなさい」
二度も言われました。そんなにも『そっとしておいた方がいい案件』なのですか? ちょっと、余計に気になってしまうのですが。
「そっとしておきなさい」
――――三回目ぇ!?
お父様の日常は横に置くとして、レオン様はなぜこんなにもお仕事を
「ん。父が倒れて――――あ、病といえば病だが、討伐した珍しい魔獣を持ち上げてぎっくり
「急に『魔獣の相手はもう嫌だ』とかなんとか叫び、挙げ句に母と一緒に異国
「あらまぁ」
思っていたよりも、レオン様って押し付けられ体質なのですね。
そういえば、父からは私を押し付けられて妻にしていますしね。
「どちらも続けている理由としては…………デスクワークだけだとストレスが
レオン様が顔を
「書類仕事が苦手なのですね」
「っ、ハッキリ言うな」
こちらに顔を戻したレオン様の頰と耳は
「うふふふふ。レオン様、可愛いです」
「なっ!? 『可愛い』はあまり嬉しくないんだが……」
レオン様の唇がちょっと
「むぅ……」
「あははははは!」
久しぶりに、大きな声で笑いました。
お腹を抱え
私たちは違うところで生まれ、違う
こうやってともに過ごしていくうちに
「私、レオン様と結婚できて幸せですわ」
「ん? 肉を食べられるからか?」
ニヤリと
「それは、もちろん!」
同じようにニヤリと笑い返しながらそう言うと、レオン様が今度は少年のように笑いました。
「ふははっ。ん、私も君と結婚できてよかったよ」
レオン様が席から立ち上がったので、どうしたのかと見つめていると、私の横に来てゆっくりと腰を
頰にそっと口付けされて、またあの胸の奥とお腹がギュッとなる感覚が襲ってきましたが、口には出さずに
すると、今度は耳元で「ありがとう、クラウディア」と低く
「ひゃんっ!」
レオン様から漏れ出た
「そう煽り返すのか…………」
そんなつもりは全くないのになぜか『煽り判定』をくらいました。
気付けば、レオン様に縦抱きにされ主寝室へ直行です。
――――デザート、まだ食べてないのにっ。
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