1-2軍神と奥方代理
セリーナとナターシャ母子が城を出てから1週間後、アラン王子一行が到着した。
事前に侍従のハンスが来て届けられる荷物の整理をしてくれたので、アゲハ達は城の隅々まで磨いて、いつ到着してもいいように待機した。
また、アラン王子はアゲハを含むロシェル辺境伯家の使用人には留まるように言ってくれたので、後ろ盾だったロシェル辺境伯を亡くしたアゲハや、戦争で家族を亡くしたミーアなど行く当てのない人間は安堵した。
「アラン・エランヴェール辺境伯が到着いたしました」
ハンスの声がして、アゲハ達はアランを出迎えた。
黒い馬から降りた軍服姿のアランは、プラチナブロンドを掻き上げて湖のようなスカイブルーの瞳でアゲハを捉えた。
今まで、美しい男性を見たことがなかったアゲハを思わず視線を逸らしてしまう。
アゲハは今年18になるが、社交界デビューをしておらず領地のラーンジュに住む人間以外と接する機会がなかった。
「大げさな出迎えはいいと言ったはずだ。ハンス」
軍神と呼ばれるアラン王子のことを、アゲハは勝手に冷徹で厳つい容姿を思い描いていた。だが、
「申し訳ありません」
謝るハンスを見て微笑むアランは、親しみやすい印象をアゲハに与えた
「アゲハというのはお前か」
「はい」
「執務室まで案内してくれ」
「かしこまりました」
スカイブルーの瞳で見つめられ、アゲハはドキドキしながら執務室まで案内した。
案内した執務室にはマホガニーのデスクと応接セット、書棚、ランプ以外の調度品はない。
「ずいぶん、物が少ないな」
昔からあった調度品は戦争時に食料に変えてしまった。
残ったわずかな調度品はセリーナ達が持ち出して全部無くなってしまった。
それに加え、アランが持って来た調度品も最低限しかない。
「最低限の物でも生活はできます」
驚くアランにアゲハは平然として答える。
「確かにそうだな」
アゲハの言葉にアランは興味深そうな顔でアゲハを見た。
ジロジロ見られているような気がしてアゲハは落ち着かない。
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