第2話 部活
「つっきー、私と同じクラス」
身支度を終え、部室を出ると華は美穂に言われた。
「え?ほんと?全然気付かなかった」
実際全く気付かなかった。華は自分の事で精一杯で周りを見る余裕もなかった。
「そっかぁ、じゃあ教室出る時とか…」
そう言うと、美穂は、コクっと頷いた。
(見られてたかぁ)
華は肩を落とす。
「つっきーに話しかけようとしたんだけどさ、凄い早くて!すぐ教室出ちゃったから駆け寄れなかったよ」
美穂が残念そうに言う。
「でもさ、あいつ、沼田愛菜、気をつけなきゃだねぇ、なんであんなあからさまなん?」
なんで、と言われても華にはよく分からない。ただ単に恵里奈を独り占めしたいだけな気もする。所謂女子の嫉妬やマウント、その類では無いかと思っていた。それにプラスして、確証は無いが、愛菜は華の事が嫌いなのだと思った。直接言われた事は無いが、何となく空気感で分かる。女子にはそうゆう異質な空気とゆうものがあるのだ。
「多分、分からないけど嫌われてる。でも、もういいよ。恵里奈も愛菜と一緒にいるだろうし。とりあえずこのままで」
「そっかぁ、まあ、なんかあったら言いなー」
適当な雰囲気もあるが、美穂も優しい。理香と美穂は家が近く、小学生の頃からの仲で、2人とも少しギャルっぽさがある。オタクな華と一緒にいる様なグループでは無いが、友達思いの優しい一面もある。ただやはり話が合わない事もあるので、同じグループには入らない。そこの気まずさは充分理解していた。部活で話すくらいが丁度良い距離なのだ。
ーーーーーーーーー
自分達が3年生になったので、あまり準備する事もなく、部活が始まる前は、各々の時間が流れた。雑務は2年生がやってくれる。今はまだ、新1年生は入ってこない。全校集会の部活紹介の日までは新入生は見学に来ないので、3年生と2年生だけである。
皆走る事が好きで、仲は良い。前は厳しい先輩も居たが、自分らの代は皆んなと仲良くしていきたい人が多かったので、以前より男女とも上下関係が厳しいとゆう雰囲気が無い。
支度を終えた男子部員も集まり其々喋り出していた。
「そろそろ準備体操始めようか」
華が副部長の男子部員、青木悠に声を掛ける。
「ういー」
いつもの軽い返事だ。悠は男子部員に集まる様に指示した。準備体操は男子も女子も集まって同じ様にやる。今日の校庭は貸切状態だ。大体が野球部とサッカー部が占領しているが、この日は野球部は運動公園にある野球場での練習。サッカー部は休みになっていた。なので、陸上部の準備体操の掛け声がとても良く響いた。校庭を贅沢に使えるのは貴重なので、皆気合が入っている。
顧問の飯塚先生が到着し、準備体操を終えると集合をかける。
「はい、今日からまた新学期だね。新たな気持ちで、大会に向けて頑張っていきましょう。特に3年生は悔いの無いように。今年は期待してるからね!では、長距離、短距離、其々メニュー見て、始めてください!」
「「はい!」」
飯塚先生は、全然陸上には詳しくなく指導者としては素人だ。中学の部活は、そうゆう先生はザラにいる。誰もやる人がいなく、とりあえず引き受けてもいいかなとゆう流れで、何となく顧問になったらしい。なんとなくで引き受けた割には、一生懸命やってくれているのが伝わるので、とても有り難かった。中には何もしない顧問の先生もいるらしい。
中学から陸上をやる子達が殆どなので、部員達は顧問の指導には特に不満など無かった。しかも飯塚先生は、自分は分からないからと、たまに外部からコーチを派遣してくれる。そんな環境で部活を出来る私達は幸運だなと思う。教員の中でも20代と若く、短髪でハキハキしている女性の飯塚先生は、親しみやすいと評判で部員達にも生徒達にも好かれていた。
今日は新学期スタートという事もあり、部活は午後の1時に終了になった。良い汗をかいた程度で部活は、終わりとなる。
「では、今日は軽く体を慣らすって感じで終わりにしましょう」
顧問が爽やかに言う。
「注目!礼!」
「「ありがとうございました」」
華の掛け声に全員が挨拶をする。いつもの光景だ。
走り終わった後はヘトヘトである。ホームルームからそのまま部活だったので、かなりお腹が空いている。
「途中のコンビニで、何か買い食いしない?」
理香がたまらず言った。
「する!」
美穂が即答し、他の3人を見る。
「お腹ぺこぺこだもんね〜、親がご飯作って待ってるけど、もう限界だから少し食べてから帰っろっか」
すみれが賛同する。華も飛鳥も顔を見合わせて、じゃあということで3年女子は全員で買い食いすることにした。
「はあー、新しいクラスまじで憂鬱なんだよ」
教室であった事を、華はコンビニで購入したちぎりパンを頬張りながら、思わずすみれに吐露した。すみれと華は小学生から一緒の仲でお互いの家を行き来するくらいよく遊んでいた。きっとすみれと同じクラスであれば、恵里奈とは離れ、一緒に居たであろう存在である。何度その想像をした事か…した所でタラレバなのでどんどん鬱になるのでやめた。やめたけど、そう考えてしまう。負の脳内無限ループ。華は実に人とのコミュニケーションに繊細であった。
「3組に沼田がいるんでしょう?あー、あいつ居るだけで怠いわ。あと私は恵里奈もちょっと無理」
すみれの見た目は真面目な雰囲気があるが、発言がいつも砕けた物言いなので、華は一緒にいて気持ちが良かった。同じ感覚の友人がいるのは心強い。
「まーそうだよねえ、そうなんだけどねえ、私もそんなに恵里奈に思い入れもないのに、ずうっと一緒にいちゃってるからダメなのかも…離れたいのに離れられないというか、なんか難しい。今更な感じがしちゃって」
華は離れられない今の自分が嫌になっていった。女子とは非常にめんどくさい。結局華も周りから変に見られたくが無い為、何があったのか悟られない為に、一緒にいる。腐れ縁の様に、前から一緒に居たから、ただ居るだけ。居たいわけでは無いのに。誰かの話の種にされるのが嫌なのだ。
ずるずるダラダラと話しながら歩く。憂鬱から離れていくのがわかる。家に帰れるという安心は、何にも変え難い。陸上部の皆んなが、愛菜と恵里奈を嫌っているおかげで、多少華の気持ちが楽になる。味方が居るんだと思うと1年間頑張れる気がした。
「つっきーなら大丈夫だよ、うちらもいるし!それよりも春の大会がんばろ!!」
「ありがとう、うん、ほんと、頑張らなくちゃ!」
理香が鼓舞してくれる。ここでは自分らしくいられて華は本当に良かったと思い、ふっと笑った。途中、帰路が違う理香と美穂と別れ、すみれと飛鳥と華の3人になる。暫く歩いた所で華が思い出す。
「あ、帰る前に今日は神社寄ろうと思ったんだった!」
「そうなの?じゃあ、おつかれー!」
すみれが手を振る。飛鳥もじゃあねーっと言って手を振る。華が2人に別れを告げ、帰宅する前にいつも通っている神社へと向かう。とても境内が広く、地元では知らない人は居ない有名な神社で、家から近い事もあり、幼い頃から華は両親に連れられよく参拝していた。
『日限龍籠神社』
大きく石に彫られた文字を見る。いつ見ても立派である。周りには色んな言葉が書いてる旗が揺れていた。沢山有り、揺れているので、めんどくさがりの華はあまり詳しく読んだことがない。今日は大事なスタートの日なので、その報告をしようと1人で参拝しようと思っていた。
財布から5円を発見し、投げる。
(中学3年生になりました。見守っていてください、特に今年は!特に!おねがいします!!)
華は念入りにお願いした。あまりスピリチュアル的な事は分からないが、今は神頼みしかできないので、ただお願いを必死にやった。常にここのお守りも持っている。これでご利益はバッチリだと思っている。
そういえば、此処の神社の息子が同級生なのだと風の噂で聞いたことを、華は思い出した。しかし接点もなく、噂話に疎い華はどんな人なのかも知らない。私には関係ない、と思った。
ちぎりパンだけでは、まだお腹は満たされなかったので、早く家に帰ろうとダッシュで神社を後にした。途中箒を持った、同じくらいの歳の男子が居たが、華は気にも止めずに走った。その男子もまた、境内の掃除に集中していて、華には気付かなかった。
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