第2話 初陣

王都を出発して三日目。

勇者一行は、魔王軍の斥候が出没するという森に足を踏み入れていた。


「ふむ……気配がするな」


火の勇者アルヴァンが剣に手をかける。

その横でノインは、いかにも「分かっている風」に頷いた。


「……ああ、感じる。大地の鳴動が、敵の接近を告げている」


(これぽっちも感じてねぇぇぇ!ただ腹が鳴っただけ!でも今のセリフ、ちょっと勇者っぽくない!?)


すると本当に、茂みの奥から魔物が現れた。

牙をむき出しにした狼型の魔獣が三匹……アルヴァンすごくね?


「来るぞ!」


アルヴァンが剣を抜き、セレーネが詠唱を始める。

リュシアンは軽やかに双剣を構え、クラリスは祈りを捧げる。


そしてノインは――。


(やっべーどうする!?おれ戦えないぞ!?でも、ここで逃げたら即バレもいいところ……とにかくハッタリでしのぐしかねぇ!!)


ノインは大地に手をかざし、重々しく叫んだ。


「……大地よ、我に力を!」


――何も起きない……起きたら俺が一番驚くわ!

……それにしたって、やっぱりなんも出ねぇ!

戦う前からピンチに追い込まれてるんだが……どうする!?


だがその瞬間、セレーネの水魔法が炸裂し、魔狼の一匹が吹き飛んだ。

リュシアンが二匹目を斬り裂き、アルヴァンが三匹目を炎で焼き払う。


戦闘は、あっという間に終わった。


「ふっ……さすがはお前らだな。よくやった」


ノインは腕を組み、涼しい顔で頷きつつ、さらにダメ押しのセリフを放つ。


「俺も大地の加護で仲間を導けて良かったよ」


(いやいやいや!俺なんもしてねぇぇぇ!でも言い切ったから引けねぇ!)


アルヴァンが眉をひそめる。


「……本当にそうか?俺には何も見えなかったが」


ノインは遠い目をして、意味深に笑った。


「見えぬ力こそ、真の力。派手に光ったり爆ぜたりするものばかりが力ではない」


(た、頼む。納得してくれぇぇぇ!)


クラリスが小さく手を合わせた。


「……確かに、神の奇跡も目には見えません。土の勇者様の力も、そういうものなのかもしれませんね」


(クラリス様ぁぁぁ!光の補正ありがとうございます!俺、今あなたという奇跡に助けられてます!)


リュシアンが肩をすくめる。


「まぁいいさ。結果的に勝ったんだ。次も頼むぜ、“大地の導き”さんよ」


(あああああ!変な二つ名つけられた!これから毎回期待されるやつだよこれ!どうすんだ俺!)


こうしてノインは、初陣から何一つ貢献していないのに

「謎の加護を操る勇者」として認識されてしまった。


――だが、彼のハッタリはまだまだ序章に過ぎない。


(いやほんとにどうすんのこれ!?次は絶対ごまかせなくない!?)

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