ハッタリ勇者は、意味深な言葉と行動で乗り切らせてもらいます!

茶電子素

第1話 大地の如き不動の心

――王城の大広間。


四方を飾る豪奢なタペストリー、煌めくシャンデリア、そして玉座に座す国王。

その前に並ぶのは、選ばれし五人の勇者たち。


「火の勇者、アルヴァン!」


「ここに!」


燃えるような赤髪を翻し、堂々と胸を張る美丈夫。

貴族の嫡男にして王国剣術大会の覇者。


「水の勇者、セレーネ!」


「はい」


青いドレスのようなローブを纏い、涼やかな瞳で一礼する美貌の令嬢。

魔法学院主席の才媛。


「風の勇者、リュシアン!」


「フッ、俺に任せろ」


軽薄そうに笑いながらも、背に背負う双剣は歴戦の証。侯爵家の三男坊。

自由気ままな色男。


「光の勇者、クラリス!」


「皆を導きましょう」


黄金の髪を揺らし、可憐に微笑む少女。大司教の娘にして神殿の秘蔵っ子。


そして――。


「……土の勇者、ノイン!」


「……はっはっはっ!我が名を呼ばれましたかな!」


場の空気が一瞬止まった。

ノインは胸を張り、腕を組み、いかにも「余裕です」という顔を作る。


だが内心は――。


(やっべぇぇぇ!足ガクガクしてる!なんで俺なんかが勇者に選ばれたんだ!?先週まで畑耕してただけだぞ!?)


そう、ノインは平民出身。剣も魔法も人並み以下。

というか農民だから、剣を握ったことも、魔法の修行をしたこともない。


……ただ一つ、妙に「見栄を張る」ことだけは昔から得意だった。


「ふむ……土の勇者よ。そなたの力に期待しておるぞ」


国王の言葉に、ノインは大仰に頷く。


「無論!大地の如き不動の心で、魔王を討ち果たしてみせましょう!」


(うわ、今のセリフかっこよすぎない!?自分で言ってて鳥肌立った!でも本当は心グラグラなんだがっ!!)


火の勇者アルヴァンが鼻で笑う。


「土の勇者だと?聞いたこともない属性だな。せいぜい足元を固めるくらいか?」


ノインは涼しい顔を作り、腕を組む。


「フッ……足元を固めることこそ、戦の要。派手な炎や風など、所詮は飾りに過ぎん」


(やべぇ、今の完全に知ったかぶり!でも言い切ったからには、もう引けねぇ!頼む、誰も突っ込んでくれるな!)


水の勇者セレーネが小さく頷いた。


「……確かに、一理ありますね」


(助かったぁぁぁ!セレーネさんありがとう!あなたが女神か!?)


こうして、四人のエリート勇者と

一人のハッタリ勇者による魔王討伐の旅が始まった。


――だがこの時は、誰一人として知る由もなかった。


虚勢と見栄で塗り固められた勇者ノインが、

後に「勇者の中の勇者」と呼ばれる存在になることを……!


(いや、ほんとに!?絶対すぐバレそうなんだけどっ!?)

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