24日目 仮装『いろんな仮装は滑稽ね』

 ニアが目を覚ますと、ゼルがベッドの脇に佇んでいた。


「お約束の魂を捕まえてきました。今日はこれで遊びますか?」


 ゼルの指し示す方向を見ると、部屋の真ん中に檻があった。檻の中には狼男の恰好をした少年たちが縛られていて、ニアの方を恨めしそうに見ていた。


『おい、あれは無能じゃないか!』

『無能のくせに、生意気だぞ!』


 ニアは魔女の服に着替えると、3人の少年たちの前に立ちふさがった。


「仮面なんか被ってるから、まだ威張れるのかしら」

「それでは、包み隠さず全てをお見せしましょうね」


 ゼルが手を振ると、少年たちの仮装も服も全てが消えてしまった。裸にされて少年たちはニアとゼルの視線から逃れようとしたが、檻の中に逃げ場はなかった。


 ニアは少年たちの裸体を隅々まで眺めた。まだ発展途上の細い肉体は、ニアの知る男たちの力強い肉体には到底及ばなかった。


「あら、アンタたち随分と貧相な身体していたのね。威張るだけ威張っていたのに、中身がそんなひょろひょろ、じゃあね! おかしいこと!」


 ニアがげらげら笑うと、黒猫のノクスがにゃあんと鳴いた。


「ねえノクス、この男の子たち、私のことをどうにかしようとしたのよ。自分に自信がないから、弱い女の子の前でしか威張り倒せない弱虫のくせにね!」


 少年たちは顔を真っ赤にして怒りを露わにしたが、拘束されているためにニアに手を出すことはできなかった。


「お祭りの日に仮装しないと気分が大きくならないお馬鹿さんは、ずっと変な格好をしていればいいのよ。ねえゼル、彼らをうんと変な恰好にしてよ。へんてこで、気持ち悪い恰好にね!」


 ニアが笑いながら言うと、ゼルは手をひとつ叩いた。すると、右端の少年の顔がヒキガエルに変わった。残り2人の少年は絶叫し、ヒキガエルになった少年はゲロゲロと悲痛な声を上げた。


「まあ、気持ち悪い! 他の2人も変えちゃってよ!」


 ゼルは2度、手を叩いた。残りの少年たちの顔は、それぞれナマズとイモリに変わった。そして全身が醜い生き物になり果てた彼らは、檻の中で粘液を流しながら右往左往した。ヒキガエルは必死でぴょこぴょこと頭を下げ、ナマズはぐねぐねと身をよじり、イモリはぶるぶると怯えているようだった。


「いやあね、とってもとっても気持ち悪い」


 目を光らせたノクスがにゃあん、と鳴くと檻の中に炎が生まれた。3匹の醜い生き物たちはこれからの己の運命を前に、檻の隅に集まった。


「イモリは黒焼き、ナマズは塩焼き、カエルは唐揚げなんかどうかしら!」

「それは美味しそうですね」


 ゼルが手を振ると、3匹は即座に『調理』された。イモリは強火で炙られ、ナマズは全身に塩を塗り込まれ、ヒキガエルは油の中へ放り込まれた。それでも3匹に意識はあった。いつか鏡で見せてもらった地獄の様相をニアは思い出した。


『ごめんなさい』

『許してください』


「謝っても、もう遅いんだからね!」


 けらけら笑いながら、ニアは3匹をゆっくりと齧った。ノクスがにゃあん、と鳴いたのでニアはイモリの足の部分千切ってノクスにくれてやった。


「もっと欲しい?」


 ノクスはにゃあん、と鳴いた。ニアはナマズの身を解して、カエルの足を引きちぎってノクスの前に置いた。ノクスは丁寧に哀れな魂をぺろりと食べてしまった。


「ふふ、カエルって美味しいのね。ゼルも如何?」

「私でしたら、ご心配なく。そんな小物より、もっと美味しいものを頂きますので」

「もっと美味しいもの?」


 ニアは小首を傾げた。醜くて哀れで愚かな魂以上に、美味しいものなど存在するのかしら。でもゼルは立派な悪魔だから、もっと哀れな魂の味を知っているのかもしれない。それが何なのかニアは気になったが、その時はゼルに尋ねることはなかった。どうせ一人前の魔女になったときに、それはわかるのだろうという思惑がニアにはあった。


 それからニアは食べ残したカエルやナマズの骨を組み立てて、新しい骨の生き物を作り出した。動き出した骨の生き物はカタカタと動いて、部屋の隅に置いてある人形のフランを襲い始めた。その様子が滑稽で、ニアは大いに笑い転げた。全てがこれからうまく行く。そんな確信を持てた日であった。


『24日目:終了』

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