13日目 ゾンビ『死んだお友達にも会えるかしら?』

 ニアが目を覚ますと、ゼルが優しく微笑んでいた。


「今日は何を望みますか?」

「ええと、何でも望みが叶うのかしら?」

「ここは貴女の夢の世界ですので、何でも」


 ゼルの言うことはよくわからなかったが、ニアは到底叶わないような願いを口にしてみた。


「それじゃあ、死んだ人にも会える?」

「人はちょっと難しいかもしれませんね。天国まで行って連れてくるのは時間がかかりますから」

「あ、人じゃないの。本当は犬なんだけど」

「犬でしたら、賢いものでしたらおそらく煉獄あたりにいるのですぐ連れてきますよ」


 ニアはゼルに、かつて仲良くしていたマックスという犬について話をした。ニアが働かされていた牧場の主人が飼っていた大きな犬で、とても利口な犬であった。寒い夜などは、納屋で震えるニアにそっと寄り添ってくれたものだった。


「そのマックスは何故死んでしまったのですか?」

「オオカミの声がして……それで村を守るために飛び出して、それっきりだったの」


 ニアは沈んだ声で話をした。その後、主人は牧場で使う犬をどこかから譲り受けたようだったが、その犬はニアに懐くことはなかった。


「では、その犬を連れてきましょうか。ノクス、代わりに行けるかい?」


 黒猫のノクスはにゃんと一言鳴くと、部屋の窓から外へ出ていってしまった。


「それにしても、あったじゃないですか。貴女の素敵な思い出が」

「ええ、でも……」


 マックスに会える、という嬉しさの反面ニアはゼルを前にして非常に惨めな気持ちになっていた。悪魔に願うことが、死んだ犬と会いたいというちっぽけなものだということがニアはたまらなく恥ずかしくなった。


「いいんじゃないですか。そんな望みでも、奴隷のヴァニアには過ぎた願いだったのでは?」


 ニアはぎゅっと胸が潰されるような感覚に襲われた。ゼルの目は相変わらず赤く輝いていた。ニアが再び疑問を持ちそうになったその時、大きな犬が窓から飛び込んできた。


「マックス!」


 ニアはマックスだったものに縋り付いた。死者の国からやってきたマックスは半身が削げ、肉と骨が丸見えであった、目も片方しか見えず、片方の目玉はどろりと垂れ下がっていた。それでもニアはマックスに再会できて嬉しかった。


「マックス、ああマックス!」

「わん、わん」


 やがて現れたノクスが、ゼルに何か囁いた。


「一晩だけ、こちらに魂を貸してもらえたそうだ。今日は一日マックスを懐かしむといいでしょう」


 ニアは涙を流してマックスを抱きしめた。マックスはニアの涙を舐め、大きくしっぽを振った。


 その日は一日中、ニアはマックスと遊んだ。多少血みどろな姿であったが、マックスに変わりはなかった。その夜、ニアはマックスとベッドに入った。とても幸せな日であった。


『13日目:終了』

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