7日目 フランケン『お人形で遊ぶの!』

 ニアが目を覚ますと、ゼルは読書をしているところだった。目覚めたニアに気が付いて、ゼルは慌てて本から目を離してニアの元に駆け寄った。


「今日は何をして遊びましょうか?」

「お人形で遊びたいわ」

「お人形、ですか?」

「そう。私だけのお人形が欲しいの」


 ニアはかつて、村の子供たちが人形遊びをするのを横目で眺めていた。擦り切れて穴が開いているニアの服よりも上等と思われる服を子供たちは人形に着せていた。ニアも人形遊びがしたいと思ったが、一緒に眠る人形どころかニアが休まる床すらなかった。いつも納屋の隅で震えながら「おともだちがほしい」と願っていた。


「それなら、とびきり可愛い人形を用意しましょうね」


 そう言うと、ゼルは虚空から人形を取り出した。ニアと同じ金髪に巻き毛で、青い目の素敵な人形であった。赤ん坊ほどの大きさの人形はニアに抱かれて、微かに笑ったように感じられた。


「わあ素敵! ずっとお人形が欲しかったの!」

「それはそれは、お気に召して頂いて幸いです。よければ、お人形の家も用意しましょうか?」

「なんて最高なの!」


 ゼルが手を振ると、部屋の真ん中に大きなドールハウスが姿を現した。人形の背丈に合わせた精密な家具の数々に、ニアの目がますます輝いた。


「ところで、その人形には名前をつけますか?」

「名前……名前、ね。そうね、貴方がくださったものだから貴方に名付け親になってほしいわ」

「悪魔が名付け親など不吉ですが……いいでしょう。それではその人形に、素敵な名前と魂を授けましょう」

「魂?」

「悪魔が名付けたものには、魂が宿ると言われております」


 ゼルはニアから人形を受け取り、顔の前に手を翳した。


「そうですね、本来人形ヒトガタとは生贄の身代わり、厄災避けの形代、そして人々の慰みの代わりとして与えられたものでした。今最上の人形ヒトガタを用意するなら……フランケン・シュタイン、などどうでしょう?」

「でも、ドイツ語みたいよ」

「それなら、可愛らしく『フランシスカ』……フラン、とお呼びするのはどうでしょう?」

「素敵ね。この子も嬉しがっているわ」


 ニアが囁くと、人形の目がぱっちりと開いた。


『こんにちわ、私フラン。よろしくね』


 フランの微かに開いた口から、言葉が発せられた。ニアが息を飲んだのがゼルにはわかった。


「まあ、悪魔ですので。このくらい朝飯前です」


 新しいお友達――フランを抱いて、ニアはにっこりと笑った。


「ゼル、ありがとう。大切なお友達が、また増えたわ」


 それからニアは喋る人形フランと黒猫のノクスにゼルも交えて、ドールハウスを使ってたっぷり人形遊びを楽しんだ。夜はフランとノクスと一緒にベッドに入り、とても素敵な夢を見た。友達が増えた、何とも嬉しい日であった。


『7日目:終了』

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