5日目 月とコウモリ『お部屋を飾りましょう!』

 ニアが目を覚ますと、ゼルがにこにこと立っていた。


「今日は何をして遊びましょうか?」

「今日は、お部屋をいっぱいに飾りたい!」

「でも、これ以上どのような装飾を施すのですか?」

「私が飾りをたくさん作るのよ!」


 ニアは村の子供たちが、よく色紙などで様々な飾りを作っているのを眺めていた。村でひとつの学校に通う子供たちは復活祭や感謝祭、クリスマスの度にきれいな飾りを窓辺に飾っていた。ニアはそれらを横目で見ながら、自分も飾りになれたら部屋の中に入れるのにと納屋の隅で震えていた記憶があった。


「それではたくさん紙を用意しましょう」


 ゼルが手を振ると様々な色や材質の紙が降ってきた。それは雨のように部屋に降り注いだ。黒猫のノクスは紙の束にじゃれつき、更に紙が宙を舞った。


「待ってよ、こんなにたくさんいらないよ!」

「そうですか、それでは何色の紙がいいですか?」


 ニアはたくさんの色紙に埋もれながら考えた。何を作るかを考えていなかったので、ニアはうんと悩むことになってしまった。


「じゃあね、金色と銀色の紙をちょうだい」

「それでは、他の色はしまいましょう」


 ゼルが手を振ると、辺り一面が金色と銀色の紙に変わった。


「わあ、きれい!」

「さて、好きなものを作りましょう」


 それからニアはゼルから渡されたはさみで、銀色の紙を三日月の形に切り抜いた。大きくいくつもいくつも切り抜いて、天井に貼り付けた。それから金色の紙も同じように星の形に切り抜いて貼り付けた。


「何ですかこれは、コウモリですか?」

「違うよ、お星さまだよ!」


 ニアに訂正されて、ゼルはバツの悪い顔をした。


「そうですか。月に群がるコウモリが私は大好きですので……」

「そうなの?」

「悪魔ですから」


 すると、ニアがクスリと笑った。


「何かおかしかったですか?」

「ううん、ゼルにも好きなものや嫌いなものがあるんだなあって……」

「私にも好みくらいありますよ」

「例えば?」


 ニアは戯れに尋ねたつもりだったが、ゼルの目は夜空の星よりも輝いていた。


「知りたいですか?」


 その瞳の輝きに、ニアは慄いた。その答えを知るのは、死よりも恐ろしいことのような気がした。


「……また今度にしておくわ」

「それがいいでしょう。さあ、天井が夜空になりました。今から月見をしましょうか」


 ゼルが手を振ると、窓から差し込む昼の光が急に夜になり、紙の月や星がランプに照らされてきらきらと輝きだした。


「わあ、きれい! 素敵ね!」

「魔法が使えるようになれば、このくらい簡単ですよ」

「わかったわ。私、立派な魔女になる!」


 そうしてニアはゼルと紙の夜空を眺め、甘いジュースを飲んだ。それからノクスと共にベッドに入り、ニアは星の夢を見た。とても美しい日であった。


『5日目:終了』

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