3日目 パンプキン『一緒にお菓子を作るの!』

 ニアが目を覚ますと、やはりゼルが側に立っていた。ベッドから降りると、ゼルが優しくニアの髪を結い上げてくれる。金色の髪の毛にぴったりの黒いリボン、薄水色のドレスに白いタイツ。全てニアが欲しかったものだった。


「今日は何をして遊びましょうか?」

「私、お菓子作りがしたい!」

「お菓子なら、私が出して差し上げますよ?」

「違うの、私が作りたいの」


 ニアは村の娘たちが、お母さんと一緒にクッキーを焼いているのを横目で見ていた。温かな家の中で小麦粉やバターを使って作るクッキーは、自分が食べているカビの生えかけたパンよりも大変美味しそうに見えた。


「出来上がったのじゃなくて、私が作った焼きたてがいいの」

「なるほど。製菓も遊びと考えられますからね」


 そう言うと部屋の真ん中にすぐにキッチンが現れた。台の上には所狭しと小麦粉やバター、砂糖などが大量に置いてあり、大きなオーブンも用意されていた。


「さて、何を作りましょうか?」


 いつの間にかエプロン姿になっていたゼルが、ニアにも可愛らしいエプロンをかける。


「私、パンプキンケーキがいい!」

「それはいいですね。それでは、かぼちゃを用意しましょう」


 虚空からぼてぼてとかぼちゃが4つ、現れた。


「私知ってるわ、これをくり抜くのよね」


 ニアは落ちてきたカボチャにナイフを入れた。ゼルの助けもあって、あっという間にカボチャはがらんどうになり、部屋の中はカボチャの匂いでいっぱいになった。


「さあ、ケーキを作りましょう」


 ゼルは器用に卵を割り、バターと小麦粉を混ぜ合わせる。ニアはゼルの手でボウルの中身が白くねばついていくのを楽しく眺めた。


「さて、砂糖とカボチャを入れましょう」


 お砂糖はどっさりのほうがいいですからね、とゼルはニアに目配せをした。ニアは手についた砂糖を一口、口の中に入れた。溶けるほど甘い、美味しい砂糖だった。


「私のケーキはもっと美味しいですよ」


 ゼルは型に生地を流し込み、オーブンへパンプキンケーキを入れた。


「すぐに膨らませることもできますが、どうしますか?」

「私、ケーキが膨らむところを見たいの」

「それはいいですね。それでは眺めましょう」


 ニアはオーブンの前で、ケーキが焼きあがるのを待った。いい匂いがして、ケーキがオーブンの中でむくむくと膨らんでいく。


「ああ、素敵。とっても美味しそう。夢みたい」

「夢ではありませんよ」


 焼き上がると、ゼルがオーブンからケーキを取り出した。いい匂いのパンプキンケーキを見た黒猫のノクスは、ニアの腕の中でにゃあにゃあと鳴いた。


「さあ、冷めないうちに召し上がりましょう」

「いただきます!」


 ゼルの焼いたパンプキンケーキは美味しかった。くり抜いたカボチャはゼルがランタンにして、部屋の隅に飾られることになった。


「私、あのランタンを見るたびこのケーキを思い出すわ」

「それではまた、作りましょう」


 それからニアはパンプキンケーキの他にたっぷり甘いお菓子を食べ、黒猫のノクスと一日中遊んだ。それからまたゼルと一緒にお菓子を作りたい、と思って眠りについた。とても甘い日であった。


『3日目:終了』

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