第7話 - 捕食者は眠らない
前回の混乱はそのまま幽霊市場の夜の通りへと溢れ出していた。
血で滑る石畳を駆け抜け、イツキを袋のように襟元からぶら下げる。
小さな足が蹴る中、骨の仮面をつけた狩人たちが遠吠え. し、鎖が石にこすれる音が響く。
頭上の提灯がちらつき、路地を不気味な赤と緑に染める。今夜の市場は生きている。店は奇怪な品物で溢れ、光る肉塊、瓶に詰められた叫び声、血管が脈打つ呪われた宝飾品が並ぶ。
息を切らしながらも、思わず笑みが漏れる。
「転ぶなよ、ガキ。靴ひもがほどけたせいで死ぬ気はないんだ。」
「ぼく…靴ひも…ないけど…」イツキは息を切らしながら答える。
前方からリンの声。汗で光るタンクトップとピタリとしたパンツ、提灯の光に輝く。
「喋る暇はない。走れ。さもないと二人とも置いていくぞ。」
一瞬、目を逸らしてしまう。光の中で揺れる腰、体に張り付く布地。
天国…脚つき。
リンが突然マントを引き寄せ、思わず息をのむ。
…そういう意味じゃない。
後ろでモモはオーバーサイズのパーカーをさらに下げる。目は冷たいが頬は淡くピンク。チラリとこちらを見る。
「さっきの転倒、楽しんだくせに…」
思わずつまずきそうになる。
「ち、違う!押されたんだ!カウントされない!」
「ふん、言い訳ね。」声は氷のように冷たい。
イツキは首をかしげ、緊張の意味がわからない様子。
明るい路地に突入する。赤いネオンサインの下、幽霊少女が佇む。体に沿う光るエクトプラズムのベール、レースのストッキングは煙のように消え、骨の装飾が体の周りを漂う。
目はピンクに光り、ネオンの光の中でウィンクする。
「市場で一番熱いストリップクラブよ!」甘く響く声。
「人間も幽霊も歓迎!まだ血が出ているなら初舞台は無料!」
「ストリップクラブって…なに?」イツキは瞬きしながら聞く。
手でイツキの目を覆う。
「お前には見せない。今も、絶対に。」
もがくイツキ。リンは肩越しにくすくす笑う。
「あら、レンジ…もっと肌見られて嫉妬?」
危うくつまずく。
モモはフードの下で微笑み、声は低く鋭い。
「過保護ね。かわいい。」
歯を食いしばる。
さらに別の店を通り過ぎる。歪んだベンダーが蒸気を立てる濃い赤い液体の瓶を振る。
「生理血だ!新鮮、熱々、ピリッと美味い!飲んでみろ、自分でも試したばかり!」
ベンダーは俺を直接見てウィンクする。
恐怖で固まる。イツキは首をかしげる。
「お、美味しいの?」
顔を覆い、叫ぶ。
「だめだ!絶対に飲むな!俺の死体を越えてもだ!」
リンは思わず笑い、脇腹を押さえる。モモも「チッ」と小さく舌打ち、唇の端は微かに上がる。
「誰も見てなければ飲むんでしょ?」冷たくからかう。
「絶対に飲まない!」顔を赤らめて怒鳴る。
鎖が石を打ち、火花が散る。骨の仮面の狩人たちが屋根に降り、幽霊の槍が光る。群衆は散る。
「しつこい連中だな。」唸る。
腕に暗赤の血管が浮かぶ。肉が裂ける。銀黒の鋼が前腕から突き出し、呪われた刃へ。血が蒸気となる。牙が尖る。笑みを浮かべる。
リンは短刀を投げ、狩人の仮面を壁に突き刺す。
「捕まったら殺されない。魂ごと剥がされる…永遠に。」
短刀は霧のように溶ける。目が赤く光る。リンは手を地面に滑らせ、黒ずんだ大鎌が影から噴き出す。刃は死の響きで唸る。
モモはフードを下げ、手に淡青い炎を宿し、幽霊火の爪を形作る。空気がひんやりする。
壁に突き当たる。行き止まり。背後に幽霊火が燃え上がる。狩人が迫る足音は太鼓のよう。
V 呪われた刃を構え、イツキを背にかばう。牙を光らせる。リンの大鎌は燃え、モモの爪は幽霊火で光る。
最初の槍が振り下ろされ—イツキに向かう。
時間が砕ける。
イツキの目がぱっと開き、淡青く光る。幽霊の印が体に浮かぶ。小さな体が震え、声は重なり響く。
「何年ぶりだろう…でも遊ぶしかないね。」
「…な、なんだこれ…?」息を潜めて呟く。
笑みは獰猛にねじれる。
「オーバードライブ。」
突然—「BOO!」
世界が爆発。
壁を滑り、天井を逆走し、影のように消える。青い光が軌跡を描く。最初の狩人に飛びかかり—仮面を噛みちぎり、幽霊を一瞬で吸い込む。体は塵となる。
固まる。刃は無力に垂れる。
「な、なに…」
リンは大鎌を握り締め、目を見開く。モモもフードを下げ、驚く。
イツキは笑いながら疾走、牙を光らせる。
「BOO!」
次の幽霊を吸い込み、鎖も丸呑み。笑いながら加速。狩人は逃げ惑う。
最後の幽霊が消えると、イツキは軽く俺の前に着地。目は無邪気に戻る。胸は激しく上下。鋼の腕は溶け、銀の糸が皮下を滑る。
イツキの肩を掴み、初めて見るように見つめる。声はかすれた。
「ガキ…お前、一体…?」
首をかしげ、微笑む。
「言ったでしょ…守るって。」
リンの大鎌は霧に溶ける。モモの炎は灰となり、蛍のように消える。
モモがフードを引き下げるのを見て、目を逸らさず尋ねる。
「なあ…なんでそのパーカー引き下げるの?」
「…関係ない。」すぐに答える。冷たいが鋭くはない。
身を寄せて笑う。
「なにか隠してるの?それとも恥ずかしい?」
頬が淡く赤くなる。
「バカ…恥ずかしくない。」
後でリンがからかったり先導したりする時、モモはフード越しに呟く。
「見すぎだぞ。」
「は?」瞬きする。
「…もういい。」声は冷たいが柔らかい。
市場は無限に広がり、ネオンと闇に四人が飲まれる。イツキの笑いが遠くに、彼自身でないかのように響く。
市場は叫び、狩人は再編する。深く下では、何か古代の存在がイツキのオーバードライブの音で目覚める。
[エピソード7 終]
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