第6話 - 邪なる競売
凍りついた。
背筋に冷たいものが走ったが、恐怖ではなかった。
それは…何か別の感覚だった。
彼女が後ろにいた。裸で、短剣が俺の喉に押し付けられている。濡れた髪が胸に貼り付き、雫が彼女の褐色の肌を溶けるガラスのように滑り落ちていた。目を見開く。
樹:「レ、レンジ!な、何――」
思わず小さく呟いた。
「誰か服着てくれ…俺は変態じゃないんだから!」
彼女の目は鋭く、ほとんど捕食者のようだった。蒸気に照らされ、微かに光る褐色の肌。動きは水のようで、一瞬たりとも無駄がなかった。
凛:「人間のくせに、こんな所に何してるの?」
唾を飲み込み、俺はにやりと笑う。「人間に見えるけどね、君も。」
心の中で、ほとんど聞こえないくらいに思った。
「地獄があるなら、これだ。天国と地獄が一つの身体にある。俺は今夜、生きて帰れない…」
彼女が目を細める。
凛:「私は人間じゃない。」
後ろにいるモモが爪を曲げ、幽霊の炎が指先を舐める。背中に熱を感じ、俺はにやりと笑った。
「わかった、わかった。モモ、落ち着け、まだ殺す必要はない…」
彼女は少し爪を下ろし、警戒のオーラは薄れたが、それでも危険を放っていた。
凛はぴったりとしたパンツと黒いタンクトップを着た。
体の曲線にぴったり張り付く。
俺は叫びたくなった。
「…服着てくれてありがとう。」
また心の中で叫ぶ。
「やめろ、服着るな!くそ、レンジ、なんで口を開いたんだ!?」
彼女の紫色の目が俺を射抜く。殺意のように。
手を下ろし、樹に見せる。小さな瞳が好奇心で輝いていた。
「レンジ…こわいよ。」
◇ ◇ ◇
「そうだな…怖くて、そして…かっこいい。」
凛が突然突進してきた。かろうじて避け、濡れた石畳の上を滑る。肩すれすれで短剣が空を切る。すぐに理解した――まだ呪いは出ていない、これは純粋な格闘技だ。モモと樹は緊張して見守る。
俺は完璧なタイミングで蹴りを入れる。彼女は俺を空中で掴み、地面に叩きつける。反射で転がり、上に立つ。目が合う…ああ、胸も見えた。一瞬だけ、確かに目の保養になった。
「いい…あなたの勝ち。」
二人は立ち上がり、互いを睨みながら回る。緊張が張り詰める。彼女はようやく柔らかい声で話す。
「あなた…彼らを守るのね?」
「…ああ。いつも。」
今夜のゴーストマーケットはいつもと違った。赤い提灯が揺れ、石畳を血のように染める。どの屋台も飢えを囁き、目が俺たちを追う。幽霊、人間、境界の存在。
樹が俺の袖にしがみつき、小さな手が震える。
樹(優しく):「レンジ…僕、ここは好きじゃない。みんな…飢えてる感じがする。」
俺は無理やり笑顔を作り、髪を撫でる。
「落ち着け。最悪、列を切るさ。俺の刃でな。」
樹は緊張しながらも笑う。しかし、真実は…俺自身も重圧を感じていた。
人混みをかき分け、広場に出る。中央には舞台、赤い布で覆われた檻が高く積まれていた。シルクハットをかぶった骸骨の男が杖を掲げ、声を響かせる。
オークショニア:「今夜は希少中の希少!生まれぬ魂!運命の子!呪われた血、瓶詰め!」
群衆は野獣のように喚く。
俺は樹に小声で呟く。
「最高だな。魂のショッピングか。おにぎりも付けてくれたら最高だ。」
樹の緊張した笑い:
「レンジ…ここで冗談言わないで…」
最初の布が落ちる。小さな幽霊の少年、鎖に繋がれ、恐怖で目を見開く。
樹が俺にしがみつく。
「…レンジ。彼、僕と同じだ。」
その時、奴らが落ちてきた。
七人の仮面の男。鬼の面をかぶり、刃は幽霊の炎で微かに光る。影のように動き、逃げ道を断つ。
群衆が騒然となる。オークショニアが腕を広げる。
オークショニア:「処刑だ!引き裂け!」
肩を回す。腕の疼きを感じる。肌が馴染みのある熱で裂ける。
銀色。呪われた鋼が前腕から突き出る。肉の代わりに長く邪悪な刃が伸び、歯が鋭く尖る。群衆が息を呑む。
俺はにやりと笑う。
「暗殺者か。よし、ようやく面白くなってきた。」
奴らが襲いかかる。速い。人間離れして速い。
振りかぶる。腕の刃が最初の仮面を切り裂き、火花が散る。暗殺者は武器を落として叫ぶ。
凛の鎌が隣で閃く。脚は水のように動き、フードが飛び、見事に一人を倒す。
凛(冷たく):「触ったら死ぬわよ。」
俺は息を止めて凍りついた。
「…ああ。やっぱり、君は人間じゃないんだな。」
モモが一瞬で飛び込み、素足で暗殺者の肋に打撃。音は銃声のように響く。
モモ(挑発して):「さあ〜それだけ?」
三人で背中合わせに戦う。四人の暗殺者に立ち向かう。
一人が背後から手を光らせて俺の胸に伸ばす。樹の声が混乱の中で響く。
樹:「レンジ!後ろ!」
回転し、腕の刃で手を切断。魂の光が花火のように弾ける。
(牙を剥いて)「いい試みだな。返金はなしだ。」
血が飛び、鉄が響く。久しぶりに笑った。ただ面白いからじゃない。呪いが俺を喜ばせているのだ。
上からもう一人が飛び込む。俺とモモは回避のため跳ぶ――だが空中で衝突、絡み合う。
世界が回る。
俺は激しく落下――顔面がモモの胸に埋まった。
フードがめくれ、提灯の光に照らされた青白い脚…腰にちらりと見えるレースのビキニ。目を見開く。
彼女は固まる、頬を真っ赤にして。
モモ(押しのけ、口ごもる):「ば、バカ!!」
俺は咳き込みながら後ろに転がり、笑いをこらえる。
「すげぇ…天国だ。」
彼女の睨みは殺意のようだった。しかし耳まで赤いのが見える。
「ラウンド2、誰か来るか?」
上空から暗殺者の一人が斬りかかる。腕で受け止め、火花が散る。二本目の刃が仮面を裂き、魂の血が飛び散る。
凛は一瞬で動く。鎌を振り回し、大きな弧を描く。暗殺者の胸を一掃し、魂が薄い霧のように漏れる。
モモの爪が嵐のよう。低く身を屈め、フードがめくれ、爪が別の暗殺者の太ももを切り裂く。幽霊の炎が紙のように肉を焼く。叫び声が響く。
広場は混沌に包まれる。刃、鉄、血、幽霊の光。
モモは低く飛び、フードが一瞬めくれる――白い尻がちらりと光る。
ああ、見た。振り回しながらも、笑みを止められない。
「くそ…危険で、しかも目の保養だ。」
モモ(叫ぶ):「黙って戦え!」
オークショニアが悲鳴を上げるが、無視。腕の一振りで檻が裂ける。幽霊の少年がふらつきながら出る。
樹が駆け寄り、震える手を握る。
樹(優しく):「大丈夫…もう安全だよ。君も僕と同じだ。」
凛の鎌に霧が滴る。声は冷たく、鋭く、切れそうだった。
凛:「…あなた、何をしたのか分かってる?」
俺は笑みを浮かべ、刃を肉に戻す。
「うん。パーティーをぶち壊した。」
彼女は俺を見つめ、目は真剣そのもの。
凛:「いいえ。ゴーストマーケット全体を敵に回したのよ。」
松明が揺れ、影が囁く。数百の幽霊の目が一斉に開く。
モモが指を鳴らす。樹は少年を抱きしめる。凛は再び鎌を掲げる。
そして俺は?
血の赤い光に牙を輝かせ、にやりと笑う。
ゴーストマーケット自体が飢えていた。
そして俺たちを――欲していた。
この夜を境に…ゴーストマーケットはレンジの名を忘れないだろう。
第6話 終わり
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