金曜日のラブレター

浅川 六区(ロク)

880文字の物語り


「ねぇねぇ菜々美ちゃん、あのさ、私が今ペンケースを開けたらね…」

 私は今目の前で起こったこと、そして決意を持って決めたことが後になって揺らぐことのないよう、全てを菜々美に伝えることにした。


「うんうん。どしたの夏ちゃん?」菜々美はいつもと変わりないトーンで、私の言葉を受け入れてくれる。

 菜々美が半笑いに見えるのはいつものことだ。決してアホな訳ではない。


「今ペンケースを開けたら、中に小さく折り畳んだ手紙が入っていたの」

「ほう」


「でね、この手紙…、多分、男子からだと思うの」

「ほうほう。それはまた何で?」


「うん。この手紙の折り畳み方だけど、雑なんだよね。折り目が揃ってないの。

適当なの。いい加減なの。普通の女子だったらこんな雑な折り方する訳ないしね」

「ふんふん」


「もー、これ男子からの手紙、確定だよー」

「男子確定ではないと思うけど、そこまで推理されたら、何となく男子っぽく思えて来たよ」


「でしょ。で、最後の推理だけど今日はほら、金曜日でしょ。この手紙、告白が書かれているラブレターに間違いないわ。それは私が可愛いからって言う理由ではなくてね、小学生における金曜日の告白率というのは九十五%以上なんだよね」

「すごーい、夏ちゃん名探偵みたいだよ。金曜日の告白率まで知ってるなんて、

 凄すぎるよー」菜々美は満面の笑顔で喜びを表現した。


「あ、いや…九十五%以上というのは正確な統計ではなくて、私の肌感覚だけどね」

「……。」


「とは言え、これは男子からの告白の手紙な訳だよ」

「…はい」


「で、私はまだロク君に思いを寄せている最中だから、ロク君以外の男子からの手紙は読みたくない。という訳だ」

「…なるほど」


「よって結論です。私はこの手紙を読みませんし、開きもしません!」

「す、凄いです。かっこ良すぎです夏ちゃん!さむらいみたいです」


「はいはいそこの二人!授業中に何をコソコソとおしゃべりしてるんだ!」担任の青野先生が私の隣にスタスタとやって来たかと思うと、

「この手紙は何だ」と、軽く小言を云いながら先生は手紙を開き、

 声に出して読み上げてしまった。



「夏ちゃん、今日の放課後にラキバでパフェ食べようね。 菜々美」




                               Fin

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

金曜日のラブレター 浅川 六区(ロク) @tettow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ