02 お馬でダッシュ

 翌朝。


 ぐーきゅるうきゅるきゅる……。


「一号、お腹の音がうるさいんだけど」

「んが? 朝か!」

「僕の判断ではそんなに寝坊じゃないよ。カーカーカッコウも啼いているし。九時ぐらいかな」


 彼が藁の中で手を入れて探っていた。


「それでさ、明るくなったのでこの指示書が見つかったんだけど」

「どれどれ・・・…」

「読めるの?」

「すまん」


 彼は四つ折りにして俺に渡した。


「俺が持つの?」

「バッグがあるだろう」

「ズタ袋のことか」

「変わった言い回しだね」


 ズタ袋に入れようとした瞬間だった。

 袋から夜光虫が飛び出す——。


 ——ごきげんよう。朱のマジシャンとヴァンパイア一号。


「は、はあ……。俺なんて、夕べ馬に舐められたところ拭いてやったんだぜ」

「運が悪かっただけ。今夜は僕が向こう側に寝るから」


 ——馬にも気持ちがありますよ。


 グヒヒーン。


「僕を待ってなくていいからっ。もうっ」

「結構可愛い顔だと思っていたけど、ますます好みなんだよな。イトは妹さんとかいないの?」

「いるとかいないとかの前にナンパすんなよ」


 ——では、本日の試合です。


 グヒ。


 ——この馬は少々愉快な馬です。交互に乗って、ポスト山の頂まできてください。場所は枕元に地図を置きました。


「俺のズタ袋のアレか。地図に見えるか?」

「ちょっと、葛飾北斎風ですね」


 ——褒めても駄目です。


「褒めてない」

「褒めてないっすよ」


 ——ここはポスト山の麓なのです。高い所を目指して駆け上がってください。疲れたら馬を使って。


「すると、俺らにごはんが?」

「そんなあけすけな。一号さん」

「体がなまってしまうから、いいよ。俺はのった」

「僕もです」


 ——よろしゅうに。


 ふわーと金粉をまぶしていってしまった。

 理由が分からん。


「お前がいくら可愛い顔をしているからって、変な気は起こさないからな」

「どんな気ですか。僕に技があれば取って返しますよ」

「じゃあ、登山中に技キメてくれや」

「マジかよ」


 馬を引いて外に出た。

 二人で屈伸などのストレッチを行う。

 ここは見知らぬ土地だけど、駅伝で鍛え、名誉がる山岳駅伝で力をつけたのを発揮したいと思う。


「俺の服は走るには快適だな」

「僕のは重たいし蒸します」

「脱がすの手伝う?」

「嫌な予感しかしないけど」


 彼はさっさと脱いで、薄物一枚になった。


「お互い素足だからさ、足元は気を付けような」

「朱、意外と優しいんだ」

「え? え? 普通の会話だよ」


 馬小屋から出て直ぐに、二人はラインを小枝で引いた。

 スタートラインだ。


「がぶりとか噛むのなしな」

「根に持たない。暑いから気をつけろよ。どこかで草履でも編めばよかったが」

「藁ならあるじゃないか」

「それもそうだな。じゃあ、馬に乗って移動しているときに作ろう」


 僕は草履作りが得意だというので、馬に先に乗せた。


「馬対人間ズフェスティバール! ゴ―!」

「レッツラゴー! ゴー!」


 俺は朝ごはんがあればいい……。

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