高校デビューした私、学校一のイケメンに一目惚れされ告白される!(但しイケメンは男じゃなくて女とする)

皇冃皐月

第1話 やっとリア充になれると思ったのに

 四月。桜がまだちらほら残っている中、私はぶかぶかで真新しい制服に袖を通し、高校へと向かっている。


 私の名前は佐倉小夜さくらさよ

 趣味は、漫画、ラノベ、アニメ鑑賞に、ゲーム。中学時代は部活をすることなく、モニターに張り付く日々だった。

 冴えない女子中学生であった。


 だが、私だって女子。

 人並みに青春を謳歌したい。リア充になりたい。イケメンな彼氏が欲しい!

 そんな願いはあった。


 だから、高校では青春を謳歌する。

 高校デビューとまではいかないけれど、それなりに身なりを整え、高校生になった。


 入学式から数日。

 まだ緊張感の漂う教室。自己紹介だの、席替えだの、そういう地味なイベントが淡々と進んでいく。

 そんな中で、やたら目立つ存在がひとり。


 隣の席になった、袖ヶ浦そでがうらひかり。


 背が高く、姿勢が良い。さらりとした短めの髪。端正な顔立ちで、笑えば爽やかさで周りをノックアウトしていく。

 いわゆる、少女漫画に出てくる王子様系のイケメンだ。


 しかも、本人は全く気取っていないのがずるい。ふとした仕草すらサマになる。

 無自覚イケメンってやつだ。


 クラスの女子たちが「かっこいい……」とひそひそ声を漏らすのも無理はない。なんなら男子さえも「あいつイケメンすぎねぇーか?」と話している。

 路上で『袖ヶ浦ひかりの顔面について』というアンケートを実施すれば、百人中百人が『イケメン』と回答すると確信できるほど、顔面が整いすぎていた。


 私はといえば、冷めた目でそれを眺めていた。


 ――イケメンが同じクラスってだけでテンション上がる女子たち。いやいや、現実は漫画じゃないんだから。こういうのはどうせ遠くから眺めて終わり。


 そりゃ付き合えるのなら付き合いたいし、お近付きになりたい。

 私だって、女の子なんだから。それくらいの願望はある。だが、同時に私は身のほどをわきまえている。

 数週間前まで冴えない女子中学生をしていた私とはどう考えても釣り合わない。


 「…………」


 だから、こうやってぼーっと眺めて、目の保養にするのがちょうどいい。

 距離感としては、推しのアイドルを眺める、くらいの感覚だ。


 そう思っていた、その矢先。目が合った。

 袖ヶ浦ひかりはにこりと微笑む。

 そういうことを平気でするから、実は私のこと好きなんじゃ……とか思わせて、人を狂わせる。この男、もはや悪魔だ。


◆◇◆◇◆◇


 とある日。


 「佐倉さん」


 不意に、声をかけられた。

 顔を上げると、袖ヶ浦ひかりが真正面から見つめてきていた。至近距離であの顔面偏差値は、ちょっと反則だ。


 「え、なに?」

 「佐倉さんの消しゴムがそこに落ちていたよ」


 誰もが持っているような新品同様の消しゴムを拾ってくれる。


 「あ、うん。ありがとう」

 「いえいえ、どういたしまして。佐倉さんのためになれてとても嬉しいよ!」


 爽やかな笑顔を向けてくる。

 私の消しゴムを嫌がらずに触ってくれるんだ……と、冴えない女子中学生の私が心で喜んでいた。引っ込んでろ、過去の私。


◆◇◆◇◆◇


 「突然ごめんね佐倉さん。今日の放課後、少しいいかな?」


 英語の授業中。

 袖ヶ浦ひかりは私の方に身体を寄せて、こそこそっと声をかけてくる。

 

 「まあ、大丈夫だけど」


 警戒しつつ、特に用事もないので頷く。


 「そうか。ありがとう。それじゃあ放課後。教室で待っていてね」


 と言われた。






 放課後。


 「それじゃあ、佐倉さん。行こうか」

 「え、どこに?」

 「人目のないところだよ」


 そう言って連れて来られたのは、普段人の寄り付かない別棟の三階だった。明るいのに人の声も足音も聞こえず、不気味な空間。


 その中で、


 「急でびっくりするかもしれないけれど、ぼく……佐倉さんのことが好きみたいなんだ。だから、佐倉さん、ぼくと付き合ってください」

 「今、告白された?」

 「うん、告白したね」


 あはは、と照れくさそうに笑う。


 そんなわけないと思った。というか、そんなわけなかった。だってまだ入学して二週間。四月の中旬だ。

 人を好きになるほど時間は経過していない。


 タチの悪い嘘ではないかと勘繰った。嘘告白というやつだ。


 「そんな疑いの目を向けられるとさすがにぼくでも悲しいよ」

 「…………私、なにか惚れられるようなことしたかな」

 「一目惚れだよ」


 よりによって私に?

 でも、瞳は真剣なものであった。真剣な眼差しとはまさにこのこと。

 見つめ合うと、彼は段々と不安そうに俯く。イケメンでもこんな顔するんだと思った。


 そして、私の中で一つの答えが芽生える。


 仮にこれが嘘だったとしてもいいんじゃないか、と。嘘でもなんでも、こんな超絶イケメンと付き合える機会、きっと人生単位で見ても最初で最後なはずだった。

 この機会を逃せば二度と巡ってこない。


 本当に私のことを好いているならそれでいいし、嘘だったとしても私を成長させてくれる。


 断る理由はなかった。


 「こんな私でよければ……ぜひ」


 だから、受け入れた。

 不安そうだった顔は、晴れる。快晴だ。


 「ああ、そうだ。その前に一つだけ言っておかなきゃいけない」


 思い出したかのように、そう言い出す。


 「言っておかなきゃいけないこと?」

 「ああ、よく勘違いされるから、もしかしたら佐倉さんも勘違いしているかもしれないなと思って」

 「勘違い?」

 「髪の毛は短いし、スカート履かないし、リボンじゃなくてネクタイしているし、なによりも男子みたいな胸の大きさだから、よく男だって勘違いされるんだけれどね。ぼく、女なんだ」

 「そっか。女。女かー……」


 袖ヶ浦ひかりは男じゃなくて、女。

 イケメンなぼくっ子ってこと?


 え、じゃあ、私、女の子と付き合おうとしてたってこと!?


 「ごめん! やっぱ無理!」

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