生きる伝説
ディオンはその瞬間に己の身に何が起きたか一瞬わからなかったが、聖槍がルナールを捉えてない事から事態を察しシェダもまたすぐにカードを使おうとするも、その前にルナールが微笑し凍りついたディオンを雑に蹴り飛ばす。
「ただの古狐であった頃より多くの書物を読み漁り、様々な魔法を体得しておいて良かったと今は思う。こうして危機を脱する術を身に着けられているならば、な」
何も言わずにシェダがディオンをカードへと戻し、それをルナールはあえて見逃す。
四大属性全てを自在に操り詠唱する事なく行使する精霊獣ルナール、生きる伝説に相応しくそれだけの力と知があるならば国盗り物語も本物とエルクリッド達は改めて思わされる。
「消耗を抑える戦い方をするのは構わぬが、ワシ相手に手を抜く余裕はあるまい?」
「……手を抜いてるつもりはないです、でも、全力で来いってならあえてそれに乗ってやろうじゃない!」
一歩前へと勇み出ながらエルクリッドがカードを引き抜き凛と構え、そこからシェダとリオも少し下がり作戦の変更を察し気持ちを切り替えた。
ルナール相手に対する消耗戦が通じなかった場合、看破され崩された場合も想定して挑んでいる。無論その択をとった場合の危険性も把握した上で。
「赤き流星よ、願いを明日へ繋ぐ希となって光輝け! いくよ、
赤き閃光と熱風と共に赤の外骨格纏う白き鱗持つ火竜ヒレイが召喚され、力強く着地しながらルナールを捉え威嚇の咆哮を放つ。
もちろんルナールはその程度で怯む事はなく、ヒレイを見てふっと笑う余裕を見せていた。
「それが真化した火竜か、ワシが相手どるには相応しいな……!」
すぐにヒレイの強さを察してルナールが仕掛ける。九つの尾を揺らしながら紫の火の玉をいくつも先に呼ぶと、身体ごと尾を振るい散弾のように火の玉を放つ。
対するヒレイは尾を振るって薙ぎ払い一撃で火の玉を弾き飛ばし、返ってくる火の玉を口を開け眼前に作り出す大きな紫炎で受けたルナールが力を込め、尾を打ち鳴らして炎を打ち出しヒレイもそれを片手で受け止めつつ後ろへと押された。
掌が焦げる感覚の中でヒレイは目を強く輝かせながら白炎を手に作って紫炎を握り潰し、続けざまに爪を閃かせ白き炎の刃を放って反撃に出る。
「スペル発動フレイムウォール」
天に向かって伸びる赤き炎の壁が炎の刃を防ぎ止め、だが勢いが少し止まる程度で突破られるもルナールの姿はそこになく、すぐに空を見上げながらヒレイが翼を広げて飛翔し尾を回し風と水と岩とを混ぜた竜巻を放つルナールへ口から白き炎を吐き迎え撃つ。
ぶつかり合う炎と竜巻とが爆発を起こし衝撃でヒレイとルナールも押されるもすぐに立て直し、同時にエルクリッドと人のルナールもカードを抜く。
「スペル発動ドラゴンハート! 一気に行くよヒレイ!」
「金色の、屍築く、死の大地、死の壇上、生の終也……! ホーム展開、金剛凶王の墓所!」
エルクリッドはドラゴンハートによる強化を行い、ルナールは
古の凶王が築いた黄金郷の滅びを描く金剛凶王の墓所、そのドラマがどんなものかエルクリッドはわからないものの、ヒレイがさり気なくエルクリッドを尾で隠しその刹那にちらりとシェダとリオに視線を送ってからルナールを捉えさらなるカードを抜く。
「ツール使用ミスリックアーマー!」
外骨格纏う体にさらに鎧を纏い炎を描き武装形態へとなったヒレイが身体を大きくのけぞらせ、勢いをつけながら白の火炎弾をルナールへ向かって放つ。その速度にルナールは対応が間に合わず咄嗟に尾で身を包んで防御するも、凄まじい威力に煙を上げながら吹き飛ばされ何とか爪を立てて舞台から落ちるのは阻止するが、五本の尾を失い女帝の羽織も焼け落ちていた。
「このワシに傷を……! ツール使用、凶王の戦斧!」
怒りを目に宿すルナールが尾を再生させながら目の前に落ちてくる禍々しい装飾を持つ大斧を尾で掴んで持ち、そのまま広がる骸骨を砕く勢いで駆け抜け一瞬でヒレイの懐へ入る。
エルクリッドも驚く間もなくヒレイの身体を斧の一閃が切り裂き、鎧ごと深く切り裂かれ血が飛ぶ。だが怯まずヒレイは尾を使ってルナールの前足を払って転倒させ、顔面を蹴り上げ強引に引き剥がすもその際に斧による一撃で顔を切られ片目を失う。
「っ……エルク、大丈夫か」
「前を見てヒレイ、来るよ!」
ヒレイが受けた傷の反射でエルクリッドも身体が裂け、右目が傷つき血を流すが前を見つめ続け身構え、その闘志に応えるヒレイもすぐに気持ちを切り替えながら火炎弾を放ち着地直後のルナールに直撃させ、白炎に焼かれながらも佇む妖狐もまたよろめきかける全身に力を込めその術を解き放つ。
「スペル、発動……金色呪縛!」
ヒレイの足下の骸骨がカタカタと音を立てながら動き、這い上がり始めすぐに振り払うも数に押されて飛び立つのも阻止されて引き摺り下ろされあっと言う間に全身を覆われてしまう。
だが刹那に全身から白の熱波を放ってヒレイは骸骨の群れを吹き飛ばすも、気を緩めずルナールの高等術に備えた。
「死屍累々を築き尚修羅の覇道を進む死者よ、怨嗟響動めかせ生者を喰らえ……!
舞台を揺らしながら骸骨の平野なら巨大な骨の手が現れたかと思うと、這い出るように金色に輝き禍々しき鎧を纏う凶王がその姿を見せる。骨となり鎧も劣化し死して尚もその目には妖しく光が灯り、下僕たる黄金の骸骨達が集まり形を成す剣を手にするとヒレイに向かって勢い良く振り下ろす。
対するヒレイは力強く踏み込みながら白炎を勢い良く吐いて迎え撃ち、眼前まで剣に迫られるも押し留めさらに火力を上げて押し返していく。
だが凶王の攻撃を止めるだけに至り、刹那、舞台を駆け抜けたルナールがヒレイの背後から九つの尾を使って身体を絞めつけ頭の向きを変えさせ、炎の向きが上へ逸れた事で凶刃がヒレイを両断する。
「中々楽しかったぞ……エルクリッドよ」
服が裂け多量の血をエルクリッドが飛ばしぐらりと崩れるのをルナールは横目で捉え、ヒレイもまた同じく身体を光に変えカードへ戻るのを見ながら賛辞を贈った。
瞬間、ルナールは目を見開く。それは倒れ行くエルクリッドの口元に浮かぶ笑みに気づいた事によるもの、そしてその意味を察した瞬間に身体に走った衝撃が確信へと変えさせ、身体を刺し貫く薄緑の刃と三日月の刃とが血で濡れるのが目に映る。
「肉を切らせて骨を断つ……己を犠牲に、ワシを……!」
口から血を流しながらルナールはエルクリッド達の策を理解する。己を貫くのは戦乙女ローズの剣と鬼戦士ヤサカの刃、それを確実に決める為にエルクリッドとヒレイが囮となったのだと。
真化したアセスが倒された衝撃は通常のアセスの比ではない、だがそれ故に強大な力を持ち切り札となり主力となる。だからこそ、それが油断を誘うものになる。
己の敗北を噛み締めながらも悪い気分ではないのを悟りつつ、刹那にルナールは振り抜かれる刃に身を裂かれた。かつて敗北した時のように、己にない何かを持った者達の強さを思いながら。
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