この遊園地であなたと【GL】
柊 奏汰
この遊園地であなたと-1
「菜子ちゃん!引っ越しする前に会いたいんだけど会える⁉」
樹里先輩からそうLINEで連絡があったのは、先輩が大学進学のために東京に引っ越す一週間前のことだった。高校の卒業式が終わってしまって、正直もう会えないんだろうなと思っていたところに舞い込んだ、思いがけない先輩とのデートの実現。私は胸を躍らせながら服を選び、二時間以上かけて髪型もメイクも完璧に準備を整えた。
「こっちこっち!」
私達はいつも遊んでいた地元の小さな遊園地の門にある、何とも言えないオリジナルキャラクターの像の前で待ち合わせた。少し早く出発して余裕を持って待っているつもりだったのに、私が着いたときにはもう先輩は待ち合わせ場所で待っていて、私の姿を認めると満面の笑みで手を振った。
「早いですね、まだ二十分前なのに」
「菜子ちゃんと会えるって思ったら待ちきれなくってさ~。でもそういう菜子ちゃんだって二十分前に着いてるんじゃん?」
「そうですね。私も楽しみにしてたので」
「ふふ、嬉しいこと言ってくれるね!誘って良かった!」
樹里先輩も楽しみにしてくれていたんだと分かって、胸の奥が温かくなる。先輩の言葉はいつも真っすぐで、私をそっと包み込んでくれるような温かさを持っているのだ。
樹里先輩との出会いは中学二年の体育祭。男女別団対抗リレーの三年生代表が、バスケットボール部のエースだった樹里先輩、二年生代表が帰宅部の私だった。帰宅部なのに学年代表なの⁉と驚かれるところから始まり、毎日放課後に練習を重ねる中で意気投合し、それ以降ずっと後輩として可愛がってくれてもう四年が経つ。部活動に所属しない私にとって先輩という存在は樹里先輩だけ。樹里先輩には後輩だってたくさんいるはずなのに、連絡先を交換してからはよく声を掛けてくれて、一緒に色々なところに遊びに行った。実は先輩がいるから今の高校に進学することを選んだ、というのはここだけの話だ。
誘ったのは私だから払うよ、と、先輩は私の分の遊園地のチケットも買ってくれた。高校でもずっとバスケットボールを続けていた先輩らしい、スポーティなパンツスタイルとポニーテールはこれまでと変わらないけれど、ふと耳元に揺れるピアスに気が付く。
「あ、ピアス」
気付いた時には言葉にしてしまっていて、樹里先輩は気付いたぁ?と嬉しそうに笑った。
「自分でやって失敗するの怖いから、美容クリニックで開けてもらったんだ!引っ越す前に髪も染めようかなと思っててね」
「…金髪ですか?」
「あはは!一回やってみたい気持ちはあるな!でも入学式はスーツだし、最初は明るめの茶色くらいにしておくつもり」
ピアスと茶髪。それは高校時代には全く触れる機会すらなかったものたちだ。ああ、先輩は私の知らないところに行ってしまうんだな、少しずつ変わってしまうのかもしれないな、と、妙に実感してしまう。私だけ地元に残されていく寂しさにはまだ見ないふりをして、そっと心の奥に仕舞いこんで蓋をした。
「何から乗りますか?」
「まずは王道のジェットコースターでしょ~。その後空中ブランコ行って、バイキング乗って、それから~」
「全部絶叫系ばっかりじゃないですか!」
「え~?それが楽しいんじゃん!これまで来たときも全部絶叫系だったし、菜子ちゃんも好きでしょ?」
「一回転するスペースシャトルコースターは外せません!」
「あはは!やっぱり!」
「じゃあ行きましょ!今日は先輩が乗りたいもの全部制覇しましょう!」
「やった~!」
ケラケラと笑う先輩の声が妙に耳にくすぐったい。先輩だからといって偉ぶったりせず、いつも等身大のまま私の隣で笑っていてくれた樹里先輩は、私にいつも元気をくれる。
「ねえ菜子ちゃん知ってる?東京ディズニーランドってまだ行ったことないけどさ、一つのアトラクションに何時間も並ぶのが普通らしいよ?そんなの待ちきれないよ~」
「パークもこの遊園地よりも何倍も広いでしょうし、きっと人で溢れてるんでしょうね…。東京に行ったら行き放題じゃないですか?」
「え~、別に行かなくてもいいかなぁ。私はこの大きさの遊園地が好きなんだもん…」
狭くてアトラクションも古びてしまっている遊園地だけれど、私達はここが大好きだった。週末の部活終わり、テスト明けのお疲れ様会、学校行事の打ち上げ…色々と理由をつけて、何度も二人でここに遊びに来た。
「高校の間に相当来ましたよね、ここ」
「そうだね、何回来たっけな?今日は平日だし、私達くらいしかお客さん居ないけどね~」
「良いじゃないですか、私達の貸し切りですよ」
「そっか!そう思えば最高じゃん!」
ジェットコースター、空中ブランコ、バイキング…先輩が乗りたいと言ったアトラクションを一つ残らず片っ端から回り、レールが途中で一回転しているスペースシャトルコースターは、目が回ると言いつつも結局三回乗った。その間、全てのアトラクションが私達の貸し切りだった。
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