悪役の魔法少女が一般人の僕にベタ惚れしていて困ってます

戯 一樹

プロローグ


  

「待ちなさい! 逃げるな!」

 ひとりの少女が、まるで重力を無視するかのように夜空を飛んでいた。

 夜の空に、幾多の光の直線を走らせながら。

 否──飛んでいるのはひとりだけではなかった。

 もうひとりの少女──銀髪で黒衣姿の少女も、縦横無尽に空を駆けていた。

 あたかも、追手の少女が放つ光線から逃れるように。

「待てって言ってるでしょ! 私の『トゥインクルマギカ』を返しなさい!」

 などと怒声を発しながら、追手の少女は手に持っている杖から何度も光線を放つ。

 依然として逃げ続ける銀髪の少女に矛先を向けて。

 しかし銀髪の少女は意に介さず、光線を避けながら手の中にある星形の宝石を見る。

「あともう少し……もう少しでわたくしの夢が……」

 と。

 一瞬視線を追手の少女から逸らしてしまったのがまずかった。

 

 追手の少女が放った光線が、銀髪の少女の背中に直撃してしまったのだ。

 

「くう……っ!」

 苦悶に表情を歪めながら、銀髪の少女はとっさにビルの物陰に隠れる。

「逃すか!」

 すかさず追手の少女も、杖を構えながらビルの物陰に回り込む。

 しかし──

「えっ。い、いない……?」

 その時にはもう、銀髪の少女は影も形もなくなっていた。


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