第29話 【外伝】モテない神さま(上)

 むかしむかし、とある年の神在月のこと。

 出雲に集まった神々は無事に神謀りを終え、万九千の社で直会の宴を開いておられました。和やかな空気と酒の香りが満ちる中、お一方だけ浮かぬ顔をしている神さまがいました。


「はあ……。戦の神としては誰にも負けん自信があるのに、どうしてこう……女神にはからっきしなんだろう。」


 ため息をついていたのは、建御雷(タケミカヅチ)様と並び称される勇猛な神、経津主(フツヌシ)様です。何やらどんよりとした空気を纏う彼を見かねて、隣に座っていた思兼(オモイカネ)様が声をかけられました。


「なんじゃ、フツヌシ。宴の最中にそんな顔をすると、酒がまずくなるぞ。」

「見てくださいよ、上座の奥を。」

「ん?」


 オモイカネ様が視線を向けると、そこには素戔嗚尊(スサノオノミコト)様と櫛名田比売(クシナダヒメ)様の仲睦まじいお姿が。

 クシナダヒメ様は笑顔でおむすびをにぎり、素戔嗚尊様は穏やかな顔でそれをほおばっておられます。


「見てくださいよ、あの光景。タケミカヅチが土下座するほど恐ろしい神さまですよ?それがあんな可愛らしい女神におむすび食べさせてもらってるんですからね。世の中どうなってるんですか。」

「八岐大蛇を退治した男じゃ。どんな女神でも心惹かれるじゃろう。」

「私だって戦の神ですよ?なのに女神には見向きもされない……。うらやましい……いや、ほほえましいけど、やっぱりうらやましい……。」


 どうやら、素戔嗚尊様がクシナダヒメ様に尽くされている姿を見て、つい焼きもちを焼いてしまったようです。


「なんじゃ、男の焼きもちほど見苦しいものはないぞ。そんなことを言う暇があるなら、己を磨け。」


 もっともなお言葉ではありますが、この時のフツヌシ様には逆効果でした。


「うるさいですよ、オモイカネ様。古参の神なのにまったく女っ気のないあなたに言われたくありません。どうせモテなさすぎて悟りを開いたフリしてるだけでしょう?」

「誰がモテなさすぎじゃ! わしには必要ないだけじゃ!」

「はいはい、モテない男ほどそう言うんですよ。言い訳乙。」

「ケンカ売っとるのか貴様!」

「おお、やるならお相手しますよ! さっきからリア充見せつけられて溜めこんだ鬱憤、まとめてたたきつけてやります!」


 ……さて、神さまといえど、モテないことを笑われると腹が立つようでございます。

 上座の方からその様子に気づいた大国主命(おおくにぬしのみこと)様が、杯を片手に首をかしげられました。


「何をやっとるのだ、あの二人は?」

「何やら、女神にモテない怒りをぶつけあっているようですね。」

「え? 何それ?」


 むしろ女神さま方から言い寄られる大国主命様には、まったく理解できない話だったようです。

 そりゃそうでしょうなあ。

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